神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

市河彦太郎が蒔いたたんぽぽ文庫


後に読書運動にかかわる市河彦太郎。中学校時代、芹沢光治良ら文学好きの仲間と『たんぽぽ』という同人誌を作っていた。命名は市河で、作品は作者の精神の胞子のようなもので、読者の所へ飛んで行き、その心に作者の精神の種子を蒔くことから、名付けたという。芹沢によれば、市河はロンドン、ニューヨーク、シカゴ、カルカッタといった赴任先で、日本の文学書の扉に「たんぽぽ文庫」という印を押して、図書館に寄贈したというから、外国でも読書運動めいた事をしていたことになる。


芹沢は、

市河彦太郎君は外交官になったが、世界をまわって後に、若い日の夢を実現するために、創作をするのだと、いつも、私に話していたが、戦争末期イラン公使を最後に退官し、敗戦後二年目に五十歳そこそこで突然亡くなった。その死とともに、多年市河君が胸にあたためていた多くの作品は、未発表のまま消えて、彼のたんぽぽは花を咲く前に枯れてしまった。


と市河の死を惜しんでいる*1。海外に蒔かれたたんぽぽ文庫、今でもどこかの図書館に残っているだろうか。


(参考)市河の略歴は2007年11月10日参照。


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思文閣出版からは井波律子・井上章一編『幸田露伴の世界』刊行。佐伯順子先生も2篇執筆。


週刊新潮』の「福田和也の闘う時評」は普段読んでいないのだが、「2ちゃん」がいいことを教えてくれたので、読む。猫猫先生も感無量かしら。

*1:「たんぽぽの花」『ひろば61』昭和49年春季。「たんぽぽ」と改題し、『こころの広場』新潮社、昭和52年4月所収。