神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

【拡散希望】6月3日に「ブックオフあるある」の大石トロンボ『新古書ファイター真吾』(皓星社)のトークイベント


  皓星社に寄ったら、大石トロンボ『新古書ファイター真吾』(皓星社、令和5年5月)をいただきました。ありがとうございます。6月付けの2刷で順調に売れているようだ。東京堂書店のベストセラー展示でも1位に並んでいた。正直絵そのものはそれほど上手いとは思わないが、ブックオフ(本書では「ブックエフ」*1)の主に100円均一台でお得な本を見つけたり、或いは買いそびれたり、プロのせどりや一般人のライバルとの闘い・駆け引きなど「古本あるある」の悲喜こもごもをまとめたコミック・エッセイで面白い。多くは著者の実体験と思われる。ただし、父の蔵書にあったのに未読のまま処分された本を探す女性のせどりのようなまったくの創作と思われる人物も出てくる。
 ブックオフ(以下単に「ブ」という)のような新古書店で育った大石氏のような若い世代と違って、私らのような本来の古書店や古本まつりで育った世代にはブに複雑な思いがある。特にブの発展期は毀誉褒貶が激しく、幾つかのエピソードが浮かんでくる。以下記憶だけに基づいて書くので、事実誤認があったら失礼。
 早稲田の五十嵐書店は、ブで廃棄用に積まれた本の中に永井荷風の貴重な本を見つけ譲ってくれるよう頼んだが、断られ怒っていた。千駄木時代の古書ほうろうは、近くに進出してきたブのせいで売り上げが落ち、一時期うらんだとか。一方、同じ古書店でも早稲田の古書現世は、高田馬場のブで屈託なくせどりをして、愛称「セドロー」と呼ばれたことがある。
 古本好きの中でも、ブの好き嫌いが別れる。漫画家の喜国雅彦氏は大のブ嫌いだった。一方、南陀楼綾繁『古本マニア採集帖』(皓星社)で採集された「退屈男」氏は、ブログ「退屈男と本と街」で度々飯田橋や要町のブを話題にしていて強く記憶に残っている。
 白っぽい本が多いブの中でも、京都大学を始めとする大学の街京都にある三条京阪のブは、一味違うブである。『近代出版研究』2号(皓星社発売)で好評だった横山茂雄ロングインタビュー「川島昭夫吉永進一らとの交友、そして古本収集話」では話題にするのを忘れたが、故川島先生は毎日三条京阪のブ(と古書店水明洞)に通っていたらしい。ここで先生は度々山本善行さんと出くわしていたという。二人は古書漁りのライバルだったのだ。大石著にもブでよく出会うライバルが話題にされていた。
 川島VS善行とは別件だが、某氏から聞いた話も記録しておこう。昔々某氏が三条京阪のブに行くと必ず見かける人がいたという。ファイター真吾なら、ここで凄絶なバトルが始まるところだが、か弱き?某氏はそうはいかなかった。あまりに出くわすので恐れをなして、行くのを止めたとか。この目撃された人物こそ後に古書店を開くヘリングさんだった。
 ここのブは品揃えが尋常ではなかった。だからこそ、川島先生や善行さんが日参したわけである。極端な例だが、8年前鴎外の初版本が2万円でレジ前に出て話題になったことがある。私もわざわざ見に行ったものである。書名は忘れたが、小説で著名な作品では無かったと思う。ブで鴎外の初版本を買うような人はいただろうか。
 さて、著者の大石氏と特別寄稿をした島田潤一郎氏(夏葉社)のトークイベント「青春はブックオフとともに」が6月3日(土)18時~19時30分に青山ブックセンター本店であります。詳しくは、「【6/ 3 (土)】『新古書ファイター真吾』刊行記念 大石トロンボ×島田潤一郎「青春はブックオフとともに」 – 青山ブックセンター本店」を。ブでほくほくしたり、悔しい思いをしたことがある皆様は、是非御参加ください。思い出のブも随分閉店になる厳しい時代。黄金期のブ、そして未来のブの姿、トークでは多面的に新古書店の過去・現在・未来が熱く語られることだろう。
 私は川島先生とは面識はなかったものの、旧蔵書の処分に参加させていただいたことがある。蔵書の中に、カラサキ・アユミ『古本乙女の日々是口実』(皓星社)があって、驚いたことであった。しかも、サイン本であった。もう少し長生きしていただけたら、古本乙女本の横に新古書ファイター本が並んでいたかもしれない。
 

*1:巻末収録の「新古書ファイター真吾 in BOOKOFF~決戦!ウルトラセール!~」は、初出がブックオフ30周年記念公式サイト「ブックオフをたちよみ!」(2020年11月)なので、「ブックオフ」と表記