先日難波神社の骨董市「ヒマガミ」をのぞいてきました。9時~11時は有料(千円)なので、11時過ぎに入場。貧乏なのと千円出して何も買わなかったら馬鹿みたいなので、いつも有料時間帯には行っていない。人より先んじていい物を入手したいという気迫もないのである。
それでも、今回ナンブ寛永氏(@kan_ei_sen)からいい物が買えた。写真を挙げた『加藤菊次郎氏家蔵劇に関する書物展目録』(郷土文化研究会、昭和19年)である。主催した郷土文化研究会は、田中緑紅が主宰した団体である。菊地先生の代わりに?購入、2千円。先生の持っている緑紅日記に出てくるだろうか。
緑紅の「序」によると、加藤は演芸研究会「柝の音会」の幹事で、多年劇に関する資料を蒐集してきたという。今回は、1度に陳列しきれないので、脚本・舞踊・喜劇・歌劇に属する物は次の機会に譲り、歌舞伎を主に出品した130余点の目録だともある。
目録に記載された書籍の分類は、次のとおりである。京都のピヨンピヨン堂が発売した中川象司*1『隈取百集』(昭和4年)が載る頁の写真も挙げておく。
歌舞伎概説
演劇史
芸談
演劇論
劇評集
演劇評論及随筆
花柳章太郎演劇関係随筆集
隈取
舞台装置
舞台化粧
鬘
小道具他
歌舞伎画集
雑誌特集号
文楽関係及人形劇
(別枠として)土佐太夫芸談(新聞切抜帖)
「柝の音会」(きのねかい)については、森西真弓編『上方芸能事典』(岩波書店、平成20年3月)に立項(森西執筆)されていた。それによると、緑紅の主宰で、昭和15年1月から21年1月まで延べ90回に及んだ芸能文化サロンである。堂本寒星、福岡みつぎが理事で、約160名の会員を擁した。能楽、歌舞伎、文楽、新派などの鑑賞会、俳優の座談会、演劇書の展観、SPレコードによる名人を偲ぶ会などが開催された。「演劇書の展観」が目録の「劇に関する書物展」に該当するのかもしれない。ただし、目録には「主催 郷土文化研究会」とあって、郷土文化研究会と柝の音会との関係は不詳である。森西先生には「田中緑紅と〈柝の音会〉」『池坊短期大学紀要』31号があるが、未見。ネットでは読めないですね(´・_・`)
『昭和人名辞典第3巻』によれば、加藤は製氷業者であった。同書から経歴を要約しておこう。
加藤菊次郎 菊香氷室 製氷業 中京区河原町四条上ル
明治44年5月8日生
昭和5年東山中学卒業祖業を継ぐ
趣味 俳句、郷土研究
住所が書物展の開催された加藤邸のある太秦とは確認できないが、趣味が郷土研究とあるので同定してもよいだろう。
次回のヒマガミは、6月11日(日)。どのような紙々に出会えるだろうか。
追記:森西論文を読めました。ありがとうございます。催し一覧に「劇ニ関スル本展観」(太秦加藤邸、昭和19年4月29日)が挙がっていました。他には、「怪談会」(民政会館、昭和16年9月20日)、「紙芝居研究会会員招待/錦影絵の会」(法林寺、昭和17年3月7日)、「祭礼と指人形の会」(竹内栖鳳邸、同年5月28日)などが気になる。
*1:目録では、「中川宗司」と誤植