神保町系オタオタ日記

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分離派建築会と板垣鷹穂・堀口捨己編『建築様式論叢』の六文館主鹿島鳴秋(本名・鹿島佐太郞)

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 京都国立近代美術館で「分離派建築会100年 建築は芸術か?|京都国立近代美術館 | The National Museum of Modern Art, Kyoto」開催中。前期は2月7日までで、後期は2月9日から3月7日まで。私は前期を既に観たが、見応えのある展示で後期も行きたくなるものであった。さて、図録162・163頁に板垣鷹穂・堀口捨己編『建築様式論叢』(六文館、昭和7年6月)から編者の「刊行にあたりて」が転載されていて、その末尾に次のようにあった。

 なほ、出版書肆六文館主の鹿島氏が、財界不況の折にもかゝはらず、此種の犠牲的出版を承諾され、且つ、編集者の我儘なる意向を許容されたることに就いても、此処に更めて敬意を表したいと考へる。

 調べてみると、「鹿島氏」は鹿島佐太郞で、小田光雄氏が「出版・読書メモランダム」の「藤澤衛彦と六文館『日本伝説研究』」で言及しておられる。御恵投いただいた『近代出版史探索V』(論創社、令和2年12月)所収。ありがとうございます。更に調査すると、小川未明『青空の下の原っぱ』(六文館、昭和7年3月)の「はしがき」に

 友人、鹿島鳴秋氏(六文館主)は、曽つて「未明童話集」発刊に際して、丸善に紹介の労をとられた人です。いまゝたかかる不況時代なるにもかゝはらず、爾後の作品を叢書の形式として、「新叢未明童話」の表題の下に、自から出版することを快約されたる(略)

とある。奥付の発行者は、東京市神田区甲賀町八の鹿島佐太郞である。
 また、李家正文『厠(加波夜)考』(六文館、昭和7年9月)の「出版の言葉」にも「六文館主鹿島鳴秋氏」への謝辞が述べられている。これで、鹿島佐太郞=鹿島鳴秋と判明した。
 同名の鹿島鳴秋は、童謡詩人・作家・編集者として知られる人物である。上笙一郎編『日本童謡事典』(東京堂出版、平成17年9月)や『日本児童文学大事典』第1巻(大日本図書、平成5年10月)に立項されていた。明治24年5月9日深川生まれ、昭和29年6月7日没。本名佐太郞。小学新報社を興し、雑誌『少年号』や『少女号』を編集、自らも執筆した。「浜千鳥」(弘田龍太郎作曲)や「お山のお猿」(同)などの童謡が著名のようだ。昭和10年代に満洲に渡り、『満洲童話集』(満洲日日新聞社、昭和16年)などを編集。確かに、国会図書館サーチで検索すると、六文館の発行は昭和8年で一旦途絶え、その後昭和17年に2冊の発行があるものの両方とも再刊である。どちらの事典にも六文館への言及はないが、童謡詩人の鹿島鳴秋=六文館主の鹿島佐太郞と同定してよいだろう。
 六文館からは、分離派建築会のメンバーとしては、蔵田周忠『欧州都市の近代相』(昭和7年2月)も刊行されている。六文館は、分離派建築会との関係や小田氏も注目する出版社なので引き続き調査が必要だ。
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