神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

昭和5年に池田師範学校の平松朝夫教諭が集めた昔話・伝説ーー河童、鬼そして砂かけ狸ーー

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大阪古書会館の「たにまち月いち古書即売会」で見つけた『北斗』31号(大阪府池田師範学校校友会雑誌部、昭和5年12月)。古本横丁出品で300円。表紙に「昔話・伝説集」と書き込みがあるので、目についた。しかし、目次に×の付いた本篇は欠けていて、附録の「昔話・伝説」だけであった。
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奥付もなく状態が悪いので、100円で拾いたいところだが、迷ったあげく購入。しばらく積ん読だったが、読んでみると割合面白いので、買って正解だった。大阪教育大学附属図書館だけが所蔵しているか。
平松朝夫「はじめに」によれば、1年生~3年生に夏休みの宿題として郷土の昔話・伝説の採集を宿題として出し、その一部を掲載したものである。昔話は数が少ないので全部載せ、伝説はまず最も多く集まった蛇の話、次に多かった狐と続く。最後にこういう話の報告を呼びかけている。

最後に、いろいの昔話伝説を知らせて下さつた諸君に御礼を申して置きます。口から口につたはる物語は時と共に変わり衰へなくなつてしまふものです。せつかくの美しい花が心なく泥にまみれて再びあらはれないことは、口惜しいことで、その周囲のものはかうなるまでにそのうつしをとつておくべきであります。これが己の郷土に対するいつくしみと義理だらうと思ひます。今後も郷土の昔話伝説風俗習慣などをどしどし私のもとまで報告していただきたいものです。これが私の願であります。

平松が集めた昔話・伝説は著書にはなってないようで、国会図書館サーチでは、国立国語研究所が所蔵する平松編『郷土童謡集』(大阪府池田師範学校国語部、昭和8年2月)がヒットするだけである。平松の経歴は不詳。廣畑力『史料でみる大阪府池田師範学校の軌跡』(平成15年5月)掲載の昭和8年度教職員名簿に教諭として名前があるが、昭和17年度の名簿には出ていない。無償公開が終わってしまった「ざっさくプラス」で、「川辺郡山下の方言と年中行事」『兵庫県民俗資料』15,昭和9年11月*1と「兵庫県川辺郡六瀬村方言集」『兵庫県民俗資料』16,昭和10年を書いたことがわかるので、兵庫県の学校に移ったのかもしれない。
本誌に載った昔話・伝説では、河童、鬼や砂かけ狸の話が面白かった。砂かけ狸は、大阪府豊能郡細河村(現池田市)の岡崎鹿太郎の報告。村の山寺の周囲は一面竹藪で、谷川に渡された石橋の横は特に竹が生え茂り、昔は砂かけ狸が出たそうだという。

夜中に山寺に急用が出来て一人こゝを通ると、必ず竹藪の中からバサバサと言ふ音と共に砂がとんで来て人を驚かしたとの事である。

しかし、14、5年前和尚が「阿呆な事するなよ。えゝかげんに止めて置け」と言ってからは、砂をかけなくなったという。昭和5年の14、5年前というと大正4、5年。大正初期まで砂かけ狸は「生存」していたことになる。なお、日文研の「http://www.nichibun.ac.jp/youkaidb/index.html」では、大阪市に「砂かけばばあー」がいたことがわかる。
追記:『日本民俗学大系』11巻(平凡社、昭和33年10月)の「大阪府」(沢田四郎作)に、「昭和五年『大阪府官幣社現行特殊慣行神事』が印刷され、平松朝夫氏が池田師範の生徒より童謡をあつめた」とある。

*1:日文研「怪異・妖怪伝承データベース」に「ガタロ」が収録されている。