神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

彙文堂異聞 京はわが先づ車よりおり立ちて古本あさり日をくらす街

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森鴎外大正6年12月帝室博物館総長兼図書頭となり、以後秋には正倉院曝涼のため奈良を訪問することになる。その節は京都の古本屋、具体的には今もある彙文堂を訪問していた。鴎外の日記によると、

(大正七年十一月)
二十八日。(略)往京都。訪彙文堂。(略)
(大正八年)
十一月一日。土。朝至京都下車。閲於彙文堂。(略)午後至奈良。入博物館官舎。(略)
(大正九年)
十一月一日。月。雨。抵京都下車。訪彙文堂。(略)午時入寧楽。寓于博物館官舎。

そして、鴎外は「奈良五十首」*1で一番目に、
京はわが先づ車よりおり立ちて古本あさり日をくらす街
と詠んでいる。余談だが、鴎外とは逆に京都の古本市に来た書物蔵さんらの一行が東京に帰る前に寄るのが書砦・梁山泊である。彙文堂の店主大島友直は大正11年6月に没*2、後を追うように鴎外も翌月に亡くなる。
さて、今は鴎外先生の代わりにわしが彙文堂で「古本あさり」をしている。といっても、鴎外のように大人買いはできないので外の100円均一台を漁るのである。ここの均一台も中々面白い物が出るので、うかうかしてると多分自転車で均一台巡りをしている林哲夫画伯に抜かれてしまうのである。先日は『神都日向』(神都高千穂宣揚会宣伝部、昭和12年3月)を発見。非売品、31頁。神都日向の神社、古墳、神話縁の地の写真集。目次の写真も挙げておく。
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今となっては、神話に関わるものの写真よりも最後のカリーと称する竹籠を背負った女性の写真の方が貴重かもしれない。
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(参考)鴎外と古書店については、「全財産を投げ打って『欽定四庫全書総目』を買った森鴎外」参照

*1:『明星』1巻3号(明星発行所、大正11年1月)

*2:野田宇太郞『文学散歩』18巻(文一総合出版、昭和52年7月)による。