神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

雨漏庵主人旧蔵の斎藤昌三編『現代筆禍文献大年表』ーー最初の所蔵者は陶山密か?ーー

f:id:jyunku:20200415195355j:plain
古書店から入手した斎藤昌三編『現代筆禍文献大年表』(粋古堂書店、昭和7年11月)。私製の函に「是国禁之書/雨漏庵主人」とある。「雨漏庵主人」は斎藤の「少雨荘主人」を意識したものか。目次の前に面白い書き込みがあった。昭和8年1月20日の日付と共に「週刊朝日新春読物号執筆●原稿料の記念に」とある。たまたま雨漏庵主人が誰か知っているが、『週刊朝日』の執筆者で最初に本書を入手したと思われる人物とは別人である。
『戦前期『週刊朝日』総目次』(ゆまに書房)で同号を見ると、作家では吉川英治林芙美子直木三十五、里見弴、サトウハチロー徳川夢声、漫画家では岡本一平、田中比佐良、小寺鳩甫、画家では岳陵、鷹思、通勢、雪岱といった名がある。さすがに本書の最初の所蔵者は、これらの人ではないだろう。しかし、執筆したタイトルから見て『現代筆禍文献大年表』を買いそうな人が1人いる。「モダン妖婦行状記」を買いた陶山密である。国会図書館サーチの著者標目によれば、明治32年生・昭和51年没。無償公開中の「雑誌記事索引集成データベース - ざっさくプラス」によると、『デカメロン』創刊号(昭和6年2月)に「<エログロ草子>女琵琶師の恋」を執筆、昭和8年8月には『新青年』に「[読物]〔サカリバ奇譚〕銀座」を書いている。戦後はカストリ雑誌に執筆。昭和45年には大陸書房から『知られざる物語』(5月)や『世界の秘話』(10月)を刊行している。
「日本の古本屋」にあきつ書店が陶山の『維新の女』(淡海堂出版、昭和18年)を出品している解説に「附略歴」とあるが、図書館が休みなので国会デジコレを見られない。「グーグルブックス」によれば、『映画評論』21巻7~12号がヒットして「陶山密は外語を出て、『新愛知』『朝日新聞』の記者を経て、松竹蒲田撮影所脚本部に入社、清水宏の第一回トーキー『泣き満[ママ]れた春の女よ』のシナリオを書きに湯河原の中西旅館にたてこもっている」とあるようだ。直感的には、この陶山が本書を買ったと思うが、証明するのは永久に不可能だろうなあ。
なお、この大年表がどんな感じか、萩原朔太郎『月に吠える』や谷崎潤一郎『人魚の嘆き』が掲載された大正6年の頁の写真をあげておこう。
f:id:jyunku:20200415195257j:plain