『二級河川』(金腐川宴游会)という同人誌がある。15号(平成28年5月)は「古本仁義」特集で、表紙は兵務局氏の蔵書、裏表紙は書物蔵氏の蔵書である。「サイン本ポーカー」という面白い記事が載っている。古本者が複数のサイン本を持参して、例えば川瀬一馬のサイン本『随筆柚の木』と木村毅のサイン本『金曜日の朝』で伝記執筆者繋がりによりワンペアと見立てるように、サイン本の組み合わせをポーカーの役として戦うものである。これを読んでて、「ふふふ、わしは1冊でスリーカードとなる本があるぞ」と思った。
その本は、平成27年7月に南部古書会館で入手した『文藝春秋史稿:三十九年の歩み』(文藝春秋新社、昭和35年2月初版・36年4月3版)である。300円位だったか。写真のように、裏見返しに昭和36年5月11日の日付と3人のサインがある。兵務局氏の協力のお陰で、十返肇、松本清張、今東光の3人と判明。私はサイン本に興味はないので、偽物でもかまわないのでほっておいたが、ブログのネタにするために調べてみた。一度に3人にサインを貰えるのは、『文藝春秋』の編集者が役得で執筆者にサインしてもらったのではないかと推測。ちょうど、「雑誌記事索引集成データベース - ざっさくプラス」が無償公開中なので調べてみると、同年5月号(同月1日発行)に清張が「怪文書」を、東光が「沖縄の厨子瓶」を書いていることが判明。十返は、同年2月号に「難解屋へもの申す<新文章読本>」を書いているが、微妙に時期が異なる。もしや、文藝春秋主催の文化講演会に出席していたのではないかと、同年7月号の「四国地方文化講演会記」を見ると、見事に正解。3人は5月9日から13日にかけて四国で講演をしていた。11日は、会場は不明だが松山で、池島(信平)編集局長と合流し、愛媛新聞社の人達に世話になったという。おそらく、講演を聴いた人がサインを貰ったのであろう。これで、サインはほぼ確実に本物であったことが確認できた。なお、清張のサインは『古本屋名簿 古通手帖二〇一一』(日本古書通信社、平成22年10月)に載っているが、時期が違うせいか微妙に異なるものとなっている。