神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

明石順三による灯台社の機関紙『黄金時代』(後『なぐさめ』)の発行部数

f:id:jyunku:20191205183101j:plain
今月7日(土)の人文研ワークショップ「キリスト教系「新宗教」研究の新展開」で山口瑞穂「明石順三と灯台社ーー外来のキリスト教新宗教における文書伝道と「翻訳」ーー」があるので、予習(?)で稲垣真美『兵役を拒否した日本人ーー灯台社の戦時下抵抗ーー』(岩波新書、平成5年1月10刷*1)を積ん読本から掘り出して読んでみた。一時期岩波新書岩波文庫の復刊で多少なりとも興味を引くものは買い込んでいたが、本書もその1冊だろう。憲法の講義で良心的兵役拒否について習った気がするが、戦前灯台社というキリスト教系の団体の信者(「エホバの証者」という)3人が支給された銃を返納し、軍事教練を拒否するなどした事件について詳しく書かれている。
本書58頁に機関紙『黄金時代』(改題後『なぐさめ』)の発行部数が出てきた。

その印刷発行部数も、一九三三年の弾圧後一、二年のうちに『黄金時代』毎月十万部、伝導[ママ]者用回覧誌『ワッチタワー』(旧名『光』)二百五十部、単行本・小冊子五千部など一ヵ月合計十万五千部に上り、一九三八年一月から『黄金時代』を改題した『なぐさめ』も、一年間に百十二万五八一七部を印刷している。(注、以上の機関紙・単行本・小冊子は一九三九年六月の第二次弾圧で全部発禁・押収・棄却の処分を受けた)

ここで秘密兵器、小林昌樹編・解説『雑誌新聞発行部数事典』(金沢文圃閣)に登場してもらおう。『黄金時代』109号,昭和12年2月は39000部、110号,同年3月は30000部とあり、部数が100000部から激減していることがうかがえる。また、『なぐさめ』24号,昭和13年5月は17883部で、更に激減したことも分かる。
稲垣著には配布の方法として、街頭配布やダイレクトメール方式のほか戸別訪問による配布を挙げているが、吉野作造の日記(『吉野作造選集』15巻)にも出てきたので紹介しておこう。

(昭和七年)
四月二九日 金曜
(略)夜接客(略)福富女史(「エホバの証者」といふ肩書あり 燈台社とやらの用命で宗教書を売りに来たものらしい いゝ加減問答してゐる中に並べた本をしまつて帰る 見てくれとは云つたが買つてくれとはいはなかつた)(略)

灯台社はこの翌年5月に一斉検挙を受け、文書伝道者百余名が検束されたので、福富女史も検束されたかもしれない。

*1:あとがきの後に、[第九刷刊行に当り]として善通寺の連隊で抵抗した三浦忠治の生涯について補筆した旨、[第十刷復刊に当り]として陸軍工科学校淵野辺分校などで抵抗した村本一生が昭和60年1月に死去した旨が追記されている。