だいぶ前にシルヴァン書房から千葉県北条町の牧野武夫宛の暑中見舞いの葉書を400円で買った。昭和7年7月30日付け消印で、差出人は光風館書店の上原才一郎である。この牧野は、中央公論社の社員を経て牧野書店を興す牧野だろうと思って購入。しかし、『出版文化人物事典』(日外アソシエーツ)によれば、牧野は明治29年奈良県生、昭和4年改造社から中央公論社に移り、7年から営業部長となっている。千葉県北条町(現・館山市)から東京の丸ビル内にあった中央公論社に通うのは無理がある。光風館書店は教科書を出版していたので、葉書の牧野は文面通り学校の「先生」だったのかもしれない。まあ、葉書の宛先が牧野書店主で『雲か山か 出版うらばなし』(中公文庫)の著者でもある牧野だったとしても、それがどうしたと言われそうなほどの内容しかない暑中見舞いではある。せめてもの救いは福澤諭吉の肖像画等を描いた川村清雄の絵が印刷されていることで、少しは買った甲斐があるか。