神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

京都時代の金尾文淵堂と製本所真英社

あまり体調がよくなかったのと紹介したい本が埋もれてしまったので、だいぶ間があいてしまった。体調も回復し、こたつを準備すべく積ん読本を整理したら大阪天満宮の古本まつりで見つけた雑誌がようやく出てきたので紹介します。なお、同古本まつりは、古書鎌田の全品が300円・500円・800円のいずれかという破格の扱いが良かった。ゆずぽんさんは、『鉄塔』(鉄塔書院)とか『文筆』(砂子屋書房)を拾ったらしい。初日にわしが買ったのは、京都市下京区西洞院七条にあった製本所真英社発行の『新影』1巻1号(昭和21年10月)ほか2冊など。同誌は同号の叩峯「新影に就て」によると、「得意先と従業員諸君を結ぶ所謂機関誌であり(略)同社のこれからの歩み方を一般(関係者)に知つていたゞきたいと共に、従業員への指導と勉強に資したい」という。製本所の機関誌ということと、臼井喜之介の詩「仕事のよろこびーーふみ作る手わざの少女に代りてーー」が載っているのと「エクス・リブリスに就て」の課題で原稿を募集している*1ので買ってみた。ところが、同号で最も面白かったのは、「生産目標ーー十月ーー」と「近刊案内」であった。
「生産目標」には、

花鎮抄 三〇〇〇 金尾文渕堂
ユダヤ古代史 二〇〇〇 大雅堂
近江奈良朝の漢文学 五〇〇〇 養徳社
懺悔記 一〇〇〇〇 〃
歌集秘帖 八〇〇〇 臼井書房

などが記載されている。戦時中奥付に記載された発行部数はこの頃は記載されていないので、貴重な資料だ。ただ、あくまで目標なので実際にこの通りの部数だったとは限らない。また、上記のうち奥付で真英社が製本者だと確認できるのは『近江奈良朝の漢文学』だけである。
「近刊案内」には、

臼井書房刊 北国 詩集 丸山薫*2
〃 江戸時代語の研究 潁原退蔵著
金尾文渕堂刊 戦争と平和 伊達俊光編
〃 正しき躾 三田谷啓

などが、記載されている。
上記のうち、金尾文淵堂は大阪で創業し、明治27年に金尾種次郎が家督を継ぎ、30年代後半に東京へ移転、関東大震災後大阪へ移転、昭和20年の大阪空襲後京都市中京区西ノ京円町へ移転した出版社である。金尾が22年1月に亡くなっていることもあって、石塚純一『金尾文淵堂をめぐる人びと』(新宿書房、平成17年2月)でも京都時代についてはほとんど言及されていない。同書によると、『戦争と平和』は22年2月に『戦争と平和物語』として刊行されているが、『正しき躾』については言及されていないし、各種OPACでも確認できない。晩年の金尾と真英社代表中村静雄には一定の交流があったと思われるので、『新影』の他の号が発見されれば、金尾文淵堂の知られざる京都時代が少しは明らかになるかもしれない。

金尾文淵堂をめぐる人びと

金尾文淵堂をめぐる人びと

*1:入手した他の2冊には、「エクス・リブリス」に関する記事は載っていなかった。

*2:『新影』1巻2号、昭和21年11月の「十一月分ーー(生産目標)ーー」には、「北国 五〇〇〇」とある。