神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

天神さんの古本まつりで薄田泣菫『艸木蟲魚』(創元社)を蔵書印買いーー「太田蔵書」の太田とは何者?ーー

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 天神さんの古本まつりの100円均一台で、初日に見つけていた薄田泣菫の本。重たくなるし珍しい本ではないので、見送った。しかし、2日目にも残っていたので購入。『艸木蟲魚』(創元社昭和4年1月)である。他にも泣菫の本はあったが、これにはやや珍しい蔵書印があったので買ってみた。
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 蔵書印は「太田蔵書」で、陽刻と陰刻の組み合わせの上、書体も変えている。全体の形も、刀のような不思議な形である。「NIJL 蔵書印データベース」に「太田蔵書」印は2種類収録されているが、本印とは異なる。おそらく同一人物によると思われる書き込みもあった。生田春月(昭和5年5月没)が「ハイネの散文の妙趣」は泣菫の散文で味わえると称賛したことに触れている。これは、『生田春月全集』10巻(新潮社、昭和6年8月)所収の「薄田泣菫の散文」*1で、「あたかもハイネの散文を読むが如き、すツと胸のすくやうな爽快感」とか、「詩趣と奇警とを兼ね備へるハイネの散文の妙趣を髣髴たらしめるものは、泣菫氏の文を措いて他に無いとは、多年心ひそかに私の思つてゐたところである」とあるのを指していると思われる。そう言えば、均一台に『生田春月全集』もあった気がする。
 ググったら、『艸木蟲魚』を400円で見つけ、「古本と蔵書印」を真っ先に読んだというブログがヒット。タイトルをみたら、「古書の森日記」。亡くなった黒岩比佐子さんのブログだった。まだ生きておられるような不思議な気分になった。しかも、「古本と蔵書印」の話である。御健在だったら、この発見を面白がってくれただろう…
 均一台には、菊池幽芳『月魄:倭文子の巻』(金尾文淵堂、明治41年6月)も出ていた。本おやさんに拾った報告をしたら、うらやましがられた本である。泣菫は、第1詩集『暮笛集』(明治32年11月)以降金尾文淵堂から著作を刊行し、幽芳とも親しかった。太田の旧蔵書とは限らないが、興味深い組み合わせである。この相当な文学好きだったと思われる太田は、何者だろうか。
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*1:初出は、読売新聞昭和4年3月23日・24日