神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

発禁本コレクター城市郎の終焉

城市郎氏の発禁本コレクションが明治大学図書館に寄贈され、平成24年に「城市郎文庫展ーー出版検閲と発禁本」が開催された。私は発禁本そのものはあまり関心がないが、愛書家の蔵書には興味があるので、同図書館まで見に行ったものである。城氏はパンフレットの「発禁本蒐集家の夢」で70年を超える発禁本人生で蒐集したコレクションは関連文献を含めると、どのくらいの数になるか見当もつかないと書いている。『城市郎の発禁本人生』(平凡社、平成15年10月)の6頁には2万冊を優に超えるとあるので、寄贈した平成23年時点では3万冊前後であっただろうか。ところが、パンフレットの「開催にあたって」によると、約7千点の蔵書が寄贈されたという。ということは、2万冊ほどの蔵書は手元に残されたわけである。
この残された蔵書がどうも大阪の市会に出たようだ。最初にあれっと思ったのは、昭和30年代に佐々木桔梗が城氏に送った葉書が大阪古書会館の古書展(矢野書房出品)に出ていたことだ。3百円だったので購入し、誰ぞこと書物蔵氏に進呈した。その後文庫櫂やmoderna改め文庫鎌田が城氏旧蔵と思われる本をネットや店頭に出品しているのを発見。そのうち文庫櫂から入手した伏字表付き丸木砂土『世界艶笑藝術』(武侠社、昭和5年10月)は『発禁本ーー明治・大正・昭和・平成ーー』(平凡社、平成11年7月)47頁に伏字表と共に書影が掲載されているもののようだ。ただし、入手した本はパラフィン紙のカバーに書誌事項が書き込まれている。このパラフィン紙への書き込みは城氏のコレクションの特徴のようで、展覧会のパンフレットに載っているコレクションの書影にも書込みのあるパラフィン紙が写っている。
パンフレットに「本は、すべていとおしいーー城市郎さんのこと」を寄せた鈴木敏文は城の『発禁本・秘本・珍本ーー城市郎コレクションーー』(河出i文庫、平成21年11月)で年譜や解説などを書いた評論家だが、既に亡くなられているようだ。文庫櫂から城氏旧蔵と思われる同書を譲っていただいたが、平凡社の『発禁本』シリーズを構成した米沢嘉博の没日、病名、享年と共に鈴木のそれも書き込まれている。米沢や鈴木の享年を遥かに超えている城氏だが、米沢と鈴木の名前などとともに、「城市郎 2013年1月2日(満91歳)←生きていれば左の如し」と書き込んでいる。この書き込みは毎年追記したようで、2014年1月2日(満92歳)から2016年1月2日(満94歳)まで続く。最後に書き込みをしたのは、2015年のようで、未知の人だがK・I(原文は実名)という名と平27.8.22の日付が記されている。知人の没日だろうか。
城氏の訃報は出ていないので御健在だとは思われるが、コレクションを明治大学に寄贈し、残った蔵書も処分しつつあるようだ。発禁本コレクターは卒業されたようだが、お元気なうちに斎藤昌三や佐々木など親しかったコレクターのことなどについてまだまだ語っていただきたいものである。

発禁本―明治・大正・昭和・平成 (別冊太陽)

発禁本―明治・大正・昭和・平成 (別冊太陽)

城市郎の発禁本人生 (別冊太陽)

城市郎の発禁本人生 (別冊太陽)