神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

松本和男編『川端康成先生著書目録』(松本和男、昭和44年1月)

書砦梁山泊(りょうざんはく)にて500円。「まえがき」によれば、「限定五〇部をタイプ印行し、関係者に配布申上げましてご教示をお願いする次第」 とのこと。なるほど、50部で関係者に配布しただけでは、どこの図書館にもないわけだ。「日本の古本屋」でもヒットしない。「まえがき」の記された昭和44年は、川端がノーベル文学賞を受賞した翌年で、新潮社から全19巻の全集が刊行開始された年に当たる。本目録は川端本人に送付されたのであろうか。
この目録が改訂された気配はない。松本の「蒐集散書半世紀」『日本古書通信』 平成9年2月によると、昭和42年に川端が親愛していた河村敦子を通じ、6冊の初版本にサインをもらい、44年1月に本目録を作った。松本は、「当時としてはもっとも完璧な書誌だった」と自画自賛している。また、「先生は私のありもしない文才を過大評価し、厚意を示して下さった。にもかかわらず、それにお報いできなかったことをいまでも愧じている。川端本も署名本を残してその後、売却してしまった」とあるので、やはり改訂はされなかったか。「まえがき」には、「ゆくゆくは橘弘一郎編「谷崎潤一郎先生著書総目録」のようなものをつくりたいと念願いたしております」とまで書いているのに残念なことである。なお、同記事によると、『古書の見方・買い方:収集のポイントと利殖の秘訣』(東洋経済新報社、昭和49年)の著者松本謙次はペンネームで、ペンネームなのに、中野書店の二世から「若い時、読ませていただき、勉強させていただきました」と声をかけられ、意外に思ったという。
本書で面白く思った所を書いておくと、
・教示をお願いした城市郎の協力が得られなかっただけに、長谷川泉から受けた的確、かつ、迅速な教示がトレラントな好意で身に沁みたということ。
・年譜の作成には、川端本を快く譲ってくれた東京をはじめ全国の古書業界の方々及び『日本古書通信』編集長・八木福次郎の協力なしには不可能だったということ
・先行年譜に記載されているものは、実物を確かめることができなかったものでも掲載したが、松本の勘ではどうも実在しなかったのではないかと思われるものも一、二ではないこと