神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

もう一人いた、マルセル・モースの弟子

マルセル・モースの教えを受けたきだみのるは、モースの『贈与論』を昭和18年7月本名の山田吉彦名義で『太平洋民族の原始経済』として日光書院から刊行している。この日光書院からは、昭和21年に『祭−−本質と諸相』という本も刊行されている。執筆したのは、男爵の松平斉光である。松平は、『第十四版大衆人事録 東京篇』(昭和17年10月)によると、

松平斉光 男爵、陸主計少尉
明治30年2月10日生。松平斉の長男。36年襲爵。大正10年東大政治科卒業。東大法学部副手、日大・法大各講師。昭和7年渡仏、ソルボンヌ大学に在り社会学及祭礼に関する研究を為す。15年8月帰朝。
母:浪子(明治15年生)公爵徳川慶光伯母

母浪子は徳川慶喜の七女である。戦後は、貴族院議員(昭和21年5月−22年5月)、都立大学教授、東海大学教授などを歴任し、昭和54年5月14日に亡くなっている。なお、渡仏の昭和7年は、松平の前掲書の著者略歴では6年*1とされている。同書は、朝日新聞社から昭和52年5月復刻されたが、山口昌男の解説に、

私は、或いは松平氏民族学の分野における唯一の学生ではないかと思う。一九六〇年頃、私は東京都立大学大学院の学生として政治学科教授であった松平氏のフランス語テキスト購読のゼミに出席していた。他に登録した学生もいたが常に出席していたのは私一人であった。モースに学んだ氏は、テキストにモースの『民族学提要』(Manuel d'ethnographie パリ、パイヨー。一九四七年)を使われた。

とあって、松平がモースから学んでいたことがわかる。昭和15年8月22日付東京朝日新聞によると、松平は、フランスからの最後の引揚船*2岡本太郎らと共に乗船し、帰国している。岡本も昭和13年以降モースから民族学を学んでいるので、乗船中や帰国後に両者の交流があってもよさそうなものだが、確認できない。不思議な話である。

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諸富祥彦『明治大学で教える「婚育」の授業』(青春新書インテリジェンス)。今からでも明治大学に入るか(笑)

明治大学で教える「婚育」の授業 (青春新書インテリジェンス)

明治大学で教える「婚育」の授業 (青春新書インテリジェンス)

*1:ただし、ソルボンヌ大学の留学期間を昭和6年から14年としているので、1年ずれているのかもしれない。

*2:3月1日参照。