この瀬沼氏といふのは荷風よりは少し年長なほどのわたくしの畏敬する老友で、荷風よりも早く、と云つて禾原翁*1ほども舊くはないが、家庭を悪んでひとり海外へ飛び出し、あめりかで苦学して、文学の造詣も浅くないからわたくしも兄事してゐるが、学閥の背景がないために事は常に志と違ひ、老齢に到るまで人生の裏街道を歩みつづけて今はさる私学の教授も停年になつてただひとりの嬢と名犬とを愛撫してゐる。
(略)
瀬沼は一時谷崎の従妹と結婚してゐたことがあつて、(後略)
引用は昭和35年5月新潮社版による。初出の『新潮』昭和35年1月号掲載分とは若干の異同がある。「瀬沼氏」のモデルが澤田卓爾である(1月31日参照)。なお、荷風は明治12年生、澤田は明治14年生。澤田の方が荷風より年下ということになる。
(参考)世田谷文学館では「永井荷風のシングル・シンプルライフ展」が16日から始まるみたい。
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