神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

古本まつりの均一台でしくじったオタどんーー破り取られた『新探偵小説』2号(昭和22年)ーー

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 神保町系を自称するオタどんも、たまに古本まつりで失敗することがある。最近とある古本まつりの300円均一台で発見した『新探偵小説』2号(新探偵小説社、昭和22年6月)である。見つけた時はホクホクとしたが、家に帰ってから中を見ると37頁以降が破り取られていた。
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 購入するときに目次を見て、乱歩の「子不語随筆」*1が載っていることだけは確認したと思う。奥付の確認をしてれば、後半の欠に気付いたはずで失敗であった。一番初めに張りついた台で珍しい雑誌が多く、時間が経つにつれて集まる人も増えてきたし、他の店も気になるので、1冊1冊の点検がおろそかになってしまった。
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 ただ、やはりレアな雑誌で、国会図書館プランゲ文庫の1号,昭和22年4月~2巻4号(通巻8号),23年7月をマイクロで持つほか、日本近代文学館が1号~4号,22年10月を持つぐらいである。「日本の古本屋」では、3号が9千円~1万円で出ている。なお、『新探偵小説』は、杉山平一が1号に「星空」、3号,昭和22年7月に「赤いネクタイ」*2という推理小説を執筆したことでも知られる。
 「創刊號に寄す」で、乱歩は「地方雑誌の初號でこれ丈け力作を揃へたのは敬服のほかありません」と褒めている。また、岡戸武平も「名古屋でこれだけ纏つた雑誌の出たのは、これが最初で切に御健闘を祈りたいと思ひます」としている。地方発行の雑誌であっても、相当好評だったことがうかがえる。
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 裏表紙も楽しめる。東京の『真珠』(探偵公論社)、神戸の『ぷろふいる』(熊谷書房)、名古屋の『パレス』(パレス社)、京都の『小説』(かもめ書房)の広告である。特に岡戸や耶止説夫(八切止夫の別名)が載る『パレス』は気になる雑誌である。
 買う時点で破り取りに気付いていれば買わなかった可能性が高い。目次にある大阪圭吉「幽霊妻」*3、服部元正「闇に葬られた話」や「作家印象記」が読めない。しかし、300円分ぐらいは楽しめたかな。

*1:表題「子不語随筆」について、編輯部が「亂歩氏はこの「子不語」といふ語を、故小酒井不木博士に書かせ額にして、珍重してゐられるが、名古屋の雑誌、小酒井さんと聯想してこの語を選ばれたものと思はれる」としている。

*2:『「X」傑作選』(光文社、平成14年12月)所収

*3:同上所収

平安神宮前の古本市で見つけた大正13年京都帝国大学工学部土木工学科入学生(?)のアルバムを調べた

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 6月にあった平安神宮前の古本市でシルヴァン書房の300円均一台に傷んだ戦前のアルバムを発見。表紙・裏表紙がなく、写真もかなり剥がされていた。元々アルバムは買ったことがないし、状態も悪いので迷ったが、旧蔵者が京都帝国大学の卒業生らしいので買ってみた。色々調べたものの、旧蔵者の氏名は不明。
 冒頭にあげた写真の建物は、京都帝国大学工学部土木工学科教室と判明。左の方に立っているのが、旧蔵者でこの年に入学したと判断した。『京都帝国大学一覧』によると、大正13年の同学科への入学者は34人である。次の写真は、京大のどこの写真か不明。右上が旧蔵者なのだろう。
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 吉田神社真如堂の写真も。真ん中は、別の写真のキャプションから妹の敏子(16歳)と分かる。
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 敏子も美人の方だが、本田真子はより美人ですね。持ち主もそう思っていたのか、真子単独の写真も(^_^;)
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 兄は水産関係の学生だったのか、このような写真が。それと関係があるのか、千葉県館山における水産講習所(東京海洋大学の前身の一つ)の学生による漁業実習の光景もある。
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 知人なのか、「昭和六年一月/新谷規矩夫氏」という名前があった。『会員氏名録』(学士会)によると、新谷は昭和6年京都帝国大学法学部卒である。
 その他、関東大震災後の芝浦埠頭や吾妻橋の写真も。余談だが、最近読んだ本に関東大震災東京帝国大学の学生は京都帝国大学に無試験で編入できたとあった。旧蔵者が東京帝国大学から大正13年京都帝国大学編入したという空想もできる。どの程度の編入者がいたのか、調べた人はいるだろうか。
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 兄がヴァイオリンをたしなんでいたり、弟が京大生だったり、教養ある一家だったことが1冊のアルバムからうかがえる。
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『北方人』37号(北方文学研究会)をいただくーーかわじもとたか「大橋歩Vs水森亜土Vs本くに子展」が来年開催ーー

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 盛厚三氏から『北方人』37号(北方文学研究会、令和3年11月)を御恵投いただきました。いつもありがとうございます。全部大切にとってあります。
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 川口則弘橘外男をはるかに超える弟の犯罪」は、橘『予は如何にして文士となりしか』(幻戯書房、令和3年9月)の解説を書いた氏による外男の弟で軍人だった武夫が関与した戦争犯罪に迫るものである。
 かわじもとたかさんの「装丁挿話」も、はや13回。江戸川乱歩ほか『江川蘭子』(探偵公論社、昭和22年12月)等の装丁をした村上正夫、斉藤長三、梶原緋佐子、関口俊吾、関頑亭を紹介。お元気そうで、来年4月に本喫茶わかば(箱根仙石原)と5月に西荻モンガ堂で、「『カワイイ』・『おしゃれ』・『ホッコリ』を描く装丁本展 大橋歩Vs水森亜土Vs本くに子」を開催とのこと。だいぶ先なので、チラシが来たら、来年また紹介します。
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平安蚤の市で明治44年創刊『小学生』の編集主任葛原しげる発行『老龍還暦賀集』を発見

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 平安蚤の市でpieinthesky氏から葛原しげる*1編『老龍還暦賀集』(葛原しげる大正2年8月)を購入。200円。これが思わぬ掘り出し物であった。葛原老龍(本名二郎)の還暦を記念して、次男しげるが知人等に頼み和歌、漢詩、俳句、書画等を寄せてもらった非売品。国会図書館サーチではヒットしない。どこにも残っていないか。しげるは祖父葛原勾当の日記『葛原勾当日記』(大正4年)も刊行していて、その古書価は高い。
 和本の饅頭本や還暦・古希等の記念本はよく見かけるが、略歴や後書きに特に興味を引く記載があると購入している。今回は、後書きに次のような記載があった。

 おのれ、当時私立精華学校に教の鞭をとりて、明暮児童の学業のすゝむを楽みてありしが、かねて思ふ所もあり、はた文部省及おのれの母校東京高等師範学校の諸氏のすゝめもありて、形こそちがへ同じ教育の為なればとて、国定教科書の月刊雑誌「小学生」といふを創刊する事となりぬ。(略)

 月刊雑誌『小学生』の創刊!ちょうど『尾崎翠:新発見資料・親族寄稿・論文編』(尾崎翠フォーラム実行委員会、平成28年3月)で、佐々木靖章先生が群馬県土屋文明記念文学館に寄贈した大正7年の『小学生』から新発見された作品を読んだばかりであった。編者の葛原については、ネットの「誠之館人物誌 「葛原しげる(ニコピン先生)」 詩人、教育者」に詳しい(ただし、若干の誤りがある)。明治19年広島県生まれ、明治41年東京高等師範学校英語科卒業後、九段精華学校の訓導となり、『小学校』の編集主任も務めた。その後博文館に入社し*2、『少年世界』『幼年世界』の編集を務めた。
 『小学生』は『日本児童文学大事典』(大日本図書、平成5年10月)によれば、明治44年3月に葛原の編集で同文館から創刊。2巻10号から渡辺光風の編集、文教社発行に移っている。「国定教科書練習雑誌」と銘打ったが徐々に文芸色を出した。主な執筆者に幸田露伴佐々木邦竹久夢二吉屋信子、河井酔茗らがいたという。
 『老龍還暦賀集』の寄稿者を見ると、老龍本人よりも編者しげるの人脈によるものが多そうだ。序文は、佐佐木信綱と池田常太郎。和歌には、末松謙澄、木下利玄、池邊義象、棚橋絢子、三輪田眞佐子、三宅龍子、素木しづ、前田夕暮ら。漢詩には、跡見花渓[ママ]、藤澤南岳ら。書には、中[ママ]小路廉、下田次郎ら。画には、大野静方、川合玉堂鏑木清方、山中古洞、山村耕花、夢二、水島爾保布らの名前が見える。
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*1:しげる」は、正しくは「滋」の異体字

*2:従来大正元年入社とされるが、しげるは『老龍還暦賀集』の後書きで大正2年正月より博文館編輯局員の一人になったと書いている。

京都で発行された『いろは別法律術語解釈』第1号(明法会、明治32年)ーー境田稔信氏のツイートを見てーー

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 大分前に境田稔信氏(@pX03dDIs4dQ1G3x)の明治・大正期における辞書の発行に関するツイートを見た。並製分冊の辞書を1冊ずつ間を置いて刊行し、完結後に上製合冊本とすることが多かったというものである。私も明治期の辞書の分冊を持っているので、この際紹介しておこう。
 『いろは別法律術語解釈』第1号(明法会、明治32年12月)は、玉城文庫から500円で。同第2号(明法会、明治33年2月)は、ぶんさいから300円で購入。前者は「い之部」の「家」から「意思表示」までを収録、92頁。後者は第1号の89頁以下の差し替え、「い之部」の「一部判決」から「遺贈義務者」まで、「ろ之部」(価値ある用語なしとして省略)と「は之部」の「破産」が収録されている。89頁~104頁(第1号の差し替えと思われる)と105頁~180頁。翻訳を別とすると、初期の法律用語辞典の1冊ということになる。
 これの合冊本が、国会図書館所蔵の『法律要語解釈』(明法会、明治33年5月*1)である。タイトルが若干修正されている*2。276頁。惣郷正明朝倉治彦編『辞書解題辞典』(東京堂出版、昭和52年3月)では*3、「基本六法の法律に限定して、法律関係用語を掲げて詳述してある。本文中での参照項目は「併見スヘキ要語」として特に掲げてあり、理解しやすい法律用語辞典である」と評価されている。ただし、売れなかったようで、国会図書館所蔵本は「はの部」の「判決ノ種別」で終わっている。「いろは」分しか収録されていないので、用語辞典としてはさっぱり役に立たないものである。続刊は確認できない。
 発行所の明法会は京都市御幸町夷川上ルに所在し、発行人は十河仟彦である。京都帝国大学法科大学は明治32年創立なので、京都で発行されたのはそれと関係があるのかもしれない。
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*1:国会図書館オンラインの明治32年5月は誤り

*2:修正というより、国会図書館所蔵本には表紙がなく、タイトルには内題を採用したということか。

*3:『いろは別法律用[ママ]語解釈』で立項されている。

天神さんの古本まつりで薄田泣菫『艸木蟲魚』(創元社)を蔵書印買いーー「太田蔵書」の太田とは何者?ーー

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 天神さんの古本まつりの100円均一台で、初日に見つけていた薄田泣菫の本。重たくなるし珍しい本ではないので、見送った。しかし、2日目にも残っていたので購入。『艸木蟲魚』(創元社昭和4年1月)である。他にも泣菫の本はあったが、これにはやや珍しい蔵書印があったので買ってみた。
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 蔵書印は「太田蔵書」で、陽刻と陰刻の組み合わせの上、書体も変えている。全体の形も、刀のような不思議な形である。「NIJL 蔵書印データベース」に「太田蔵書」印は2種類収録されているが、本印とは異なる。おそらく同一人物によると思われる書き込みもあった。生田春月(昭和5年5月没)が「ハイネの散文の妙趣」は泣菫の散文で味わえると称賛したことに触れている。これは、『生田春月全集』10巻(新潮社、昭和6年8月)所収の「薄田泣菫の散文」*1で、「あたかもハイネの散文を読むが如き、すツと胸のすくやうな爽快感」とか、「詩趣と奇警とを兼ね備へるハイネの散文の妙趣を髣髴たらしめるものは、泣菫氏の文を措いて他に無いとは、多年心ひそかに私の思つてゐたところである」とあるのを指していると思われる。そう言えば、均一台に『生田春月全集』もあった気がする。
 ググったら、『艸木蟲魚』を400円で見つけ、「古本と蔵書印」を真っ先に読んだというブログがヒット。タイトルをみたら、「古書の森日記」。亡くなった黒岩比佐子さんのブログだった。まだ生きておられるような不思議な気分になった。しかも、「古本と蔵書印」の話である。御健在だったら、この発見を面白がってくれただろう…
 均一台には、菊池幽芳『月魄:倭文子の巻』(金尾文淵堂、明治41年6月)も出ていた。本おやさんに拾った報告をしたら、うらやましがられた本である。泣菫は、第1詩集『暮笛集』(明治32年11月)以降金尾文淵堂から著作を刊行し、幽芳とも親しかった。太田の旧蔵書とは限らないが、興味深い組み合わせである。この相当な文学好きだったと思われる太田は、何者だろうか。
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*1:初出は、読売新聞昭和4年3月23日・24日

不忍ブックストリームに本おやの坂上友紀さんが登場

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 Twitterの「不忍ブックストリート」(@hitohako)によると、10月31日(日)21時からのYouTube「不忍ブックストリーム」に大阪堂島の古書店「本は人生のおやつです‼」の坂上友紀さんが登場されるとのこと。行かれたことのある人は必ず見ること。見てもらったら、そう言う意味が分かる。