神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

明治23年兵庫県の氷上高等小学校に寄贈された幻燈ー演劇博物館「幻燈展」から10年ー


 早稲田大学坪内博士記念演劇博物館で「enpaku 早稲田大学演劇博物館 | 幻燈展――プロジェクション・メディアの考古学」(平成27年4月1日~8月2日)を観たのも、10年前ですね。もっとも、ボケてきたので、内容はまったく覚えていない…
 今回は、平安蚤の市で入手したと思われる『幻燈購収結算報告』(以下「本書」という)を紹介しよう。発行所や発行年の記載なし、26頁。多分200円均一箱で、そうでなければ500円位で購入。本書の10頁以降に金額と氏名が並んでいるので、お金を出し合って幻燈を購入した決算報告で知っている名前がないかと買ったのだろう。
 ところが、今回前の方を読むと、明治22年前氷上高等小学校長の野々村政也が兵庫県氷上郡の有志に図り幻燈映画を購入し同校に寄贈しようとする計画を建て、野々村が文部省へ栄転後に残務を嘱託された者による収支決算であった。「寄付金募集趣意書」、「幻燈寄附願及指令書寫」も掲載されている。「幻燈寄附願」は、明治23年4月29日付けで兵庫県氷上郡長芦田辰左衛門宛、「指令書寫」は同年5月26日付けなので、本書は明治23年発行と思われる。
 精しく見ると、名簿よりも購入した幻燈器械と映画(スライドのこと)の一覧の方が重要だった。総額91円58銭のうち、やはり幻燈器械が23円で最高額である。岩本憲児『幻燈の世紀:映画前夜の視覚文化史』(森話社、平成14年2月)129頁に載る『教育学術 改良幻燈器械及映画定価表』(鶴淵幻燈店、推定明治25年か26年頃)*1記載の幻燈器械の定価は、第1号30円、第2号27円、第3号25円、第4号21円で、一番安い物が5円50銭とある。23円の幻燈器械は高い方に属したと思われる。また、岩本著には「映画」のセットもので高いのが13円とあるが、本書ではセットものの最高額は「天文映畵」1組13円、次いで「幼學綱要映畵」1組6円50銭である。
 岩本著135頁は幻燈に関する絵画に描かれたクロマトロープを想起させる模様について、木村小舟『明治少年文化史話』(童話春秋社、昭和24年)から次のように引用している。

 この時代の幻燈会でも、その最後には、極ったように、一個の美麗な花輪を映出して、終幕を知らせたものである。
 この花輪というのは、催主にしてみると、所謂取って置きの一品で、それだけに頗る手の込んだもので、価格からしても、他の種板に比べると、数倍に上ったものらしい。(略)

 本書には、「花輪車映畵」1枚65銭とあって、「歴史映畵」17枚4円25銭、「内外人物映畵」5枚1円などと比べると2~3倍したことが分かる。なお、岩本著137頁に「「花輪(ルビ:かりん)」(「花輪車」ともいう)」とある。
 旧氷上高等小学校の建物は明治18年建築で兵庫県の重要有形文化財に指定され、たんば黎明館として活用されている。建物は残ったが幻燈関係の史料は残っていないだろう。本書は、幻燈受容史だけでなく、兵庫県の近代教育史上も貴重な史料と思われる。
 

*1:演劇博物館には、「幻灯販売目録データベース」がある。