神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

帝国図書館時代の納本率ー引野亨輔『近世・近代寺院蔵書の社会史』(塙書房)への補足ー


 平成30年丸善京都本店で、岩田真美・桐原健真編『カミとホトケの幕末維新:交錯する宗教世界』 (法藏館、平成30年11月)の刊行記念講座が開催された。私は、そのうち引野亨輔・碧海寿広両先生の「本屋と仏像の明治」を拝聴。引野先生は、「皆さん、中公新書『仏像と日本人』を出された碧海先生目当てでしょうが~」と謙遜しておられた。いやいや、私は引野先生の発表も目当てでした。特に印象深かったのは、西洋流印刷術が明治20年代には一般的になっていたという通説に対して、東京と京都で出版された仏書について活版と木版の数量分析による比較を行い、京都ではそうではなかったことを明らかにしたことであった。
 この数量分析は前掲書には載っていなかったが、最近出た『近世・近代寺院蔵書の社会史』(塙書房、令和6年12月)の第5章「近代仏書出版史序説」に載っていて、改めて拝読した。結論に異論はないが、1点気になる記述がある(342、408頁)。『国立国会図書館所蔵明治期刊行図書目録』に載る仏書のうち東京と京都で出版されたものを比較したとして、

国立国会図書館の所蔵図書は献本制度によって収集されたものであるため(14)、私家版や地方出版などの取りこぼしを除けば、これら二つの図は明治期に出版された仏書をほぼ網羅的に対象とした分析データと考えて良い。

註(14)NDL入門編集委員会編『国立国会図書館入門』(三一書房、一九九八年)一一四~一四五頁。 

と書かれている。ここで挙げられている典拠は、主に現在の国会図書館における納本制度についての説明である。明治期の出版物については、陶山国見『蔵書構成の実態調査及びその評価計画について』(国立国会図書館、昭和49年12月)を見るべきだろう。同書16頁及び資料五イ「出版図書・新聞雑誌数年表」によれば、東京図書館帝国図書館時代の納本率は明治期最低30%最高70%、大正期40%~80%、昭和期平均80%~90%で、国立国会図書館になってからは平均80%と推定されている。
 ちなみに、引野著365頁で仏教演説集が傍聴筆記のため誤記が多いことに関連して、富田実英編『万国霊智学会総長ヲルコット氏演説』(擁万閣、明治22年)冒頭の編集者の弁明を挙げている。そして、そこへの注として、「なお、ヘンリー・スティール・オルコットの来日が日本仏教に与えた影響については、吉永進一『神智学と仏教』(法蔵館、二〇二一年)一八〇~二一一頁に詳しい」とある。
参考:「明治時代から、納本制度による収集が始まった昭和23年以前に毎年刊行された資料(一般に流通している図書... | レファレンス協同データベース