
先月の寸葉会(絵葉書、地図、切符など紙もの中心の即売会)には、少し遅刻。例によって皆様、主宰の寸葉さんの箱は後回しにして、ひげ美術に殺到していた。入り込む余地が無く仕方なく、普段見ない寸葉さんの戦後の絵葉書を先に見た。買わなかったが、小笠原秀実宛やマリア書房(マリア画房の後身)宛があって、戦前分も古書市場に出たのか気になった。今回珍しく女性が4人もいて、しかも研究者らしく驚いた。
さてようやく見られたひげ美術の箱から『蔵版時報』大正4年冬季号(籾山書店、大正4年11月)を入手。32頁、1,000円。籾山書店のPR誌ということで買ってみた。調べてみると、永井荷風の「知友書翰集」に載る大正4年10月27日付け籾山書店の創業者籾山仁三郎から荷風宛の封書に「只今出来の蔵版時報一本進呈」、「日和下駄の広告文不出来にてこれは本誌限り用ゐず」とある当該号である。「不出来」という広告文を挙げておく。荷風の研究者でも見たことがある人は限られるだろう。

広告の記載内容は、大正4年11月15日に発行された実物と一致しているようだ。ただ、本誌の「永井荷風氏の作品につきて」にある目次中では、「樹」とあるべきところが「樹木」となっている。また、「おそくも十一月初旬に發行可致」との記述もあるが、実際は11月中旬に発行された。更に「日和下駄序」も掲載されている。実際の発行時の文とは7箇所程の異同がある。荷風が校正で手を入れたのだろうか。
本誌には、他に「森鴎外先生の作品につきて」、「水上瀧太郎氏の作品につきて」、「俳書雑話」や投稿と思われる「短歌集」や「俳句集」も掲載されている。新刊案内がメインではあるが、号によっては貴重な情報が載っていそうである。国会図書館サーチやCiNii Booksではヒットしない。さいたま文学館が俳書堂名義の明治42年2月春季号を所蔵しているくらいか。「日本の古本屋」には俳書堂・籾山書店両者の発行分を合わせて3件の出品記録があるが、すべて売り切れている。重要性に気付いている人がいるようだ。