
並木誠士編『近代京都の美術工芸Ⅱ:学理・応用・経営』(思文閣出版、令和6年7月)は、高木博志先生の「寿岳文章と向日庵本の時代」を始め、私好みの論文が多くワクワクしながら拝読している。更に手持ちの史料で補足が書ける論文が幾つかあって、既に幾つか投稿したところである。今回も頼まれた訳でもないのに、岡達也「図案の語義と概念の展開に関する研究ーー明治期の美術・図案雑誌を中心として」に補足しておこう。
明治35年に結成された京都図案会の機関誌『京都図案』に関する部分が対象である。
・先行研究として、平光睦子『「工芸」と「美術」のあいだ:明治中期の京都の産業美術』(晃洋書房、平成29年3月)所収の「「図案家」と「図案」ーー京都図案会の活動と理念」を挙げるべきだろう。
・450頁「川村猪蔵(文芽、生没年不詳)」→慶應3年生、昭和5年没。「『東壁』(関西文庫協会)の編集委員川村猪蔵は、日出新聞記者だった - 神保町系オタオタ日記」参照
・同頁「北村直二郎(生没年不詳)」→「直二郎」は『京都図案』2巻1号(京都図案会雑誌部、明治40年4月)の「会員名簿」にある記載だが、これは誤植で正しくは直次郎。同じ『近代京都の美術工芸Ⅱ』所収の井戸美里「室内装飾のための図案ーー明治後期から大正期の花鳥図案と京都画壇」に出てくる483頁の「北村鈴菜(一八七五~一九二四)」・492頁の「北村直次郎(鈴菜)」と同一人物である。
・451頁国会図書館デジタルコレクションにより、『京都図案』は2巻1号(明治40年4月)~5巻1号(明治43年1月)を確認できる→小林昌樹『もっと調べる技術:国会図書館秘伝のレファレンス・チップス2』(皓星社、令和6年6月)に国会図書館にない本を探す法として「日本の古本屋」が出てくるので、使ってみよう。ただし、すべてが過去データとして「書誌カタログ」に保存されているわけではなく、小林君の記述に補足すれば「日本の古本屋」の初期設定である「在庫ありのみ」のチェックを外して「京都図案」を検索してみよう。次のような驚くべき情報が得られる。

赤尾照文堂から2巻1号~5巻10号(65号、明治43年12月)、更には改題後の『図案』66・67合併号(明治44年2月)、68号(明治44年4月)と再刊『京都図案』1号~4号(芸艸堂)が出品され、売り切れている。これで少なくとも京都図案会発行の『京都図案』は5巻10号まで続いたと確認できる。
なお、家蔵の『図案』66・67合併号*1を見ると、編輯人は川村文芽、発行所は図案協会である。「我図案協会新興の因由」によれば、『京都図案』廃刊を受けて高阪三之助が京都図案会以上に顕著な研究機関を創立し、『京都図案』に代わる『図案』を発行するために明治44年1月に図案協会を創立したという。これにより、平光論文 174頁・187頁に文献記述に食い違う点もあり今後精査を擁要するとしつつ、高坂*2三之助が明治41年京都図案協会を設立したとあるのは、明治44年設立が正しいことになる。