神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

後の大谷大学学長山辺習学が昭和3年島津忠重公爵邸で開催した仏教講話


 尚友倶楽部・季武嘉也・櫻井良樹編『財部彪日記』(芙蓉書房出版、令和3年11月)の索引を見てたら、山辺習学が出てきた。8回出てきて、すべて財部が袖ヶ崎の島津忠重公爵邸で開催された山辺の仏教講話に参加したという記述である。一部を引用しておこう。

(昭和三年)
九月十八日 火曜
(略)
夕七時より島津公の招に依り袖ヶ崎邸に於ける山辺師の仏教講話を聴講。
 釈迦の発心
    老
 現実{*1病   理想(不死)
    死
 仏教の筋道「聞思修」
(略)
十月二十二日 月曜
(略)六時半妻同伴袖ヶ崎島津邸に赴き、山辺博士の十二縁起講義を聞く。九時過帰邸。
十一月二十日 火曜
(略)
夜島津公爵邸の山辺博士の仏教講義に赴く。十二因縁の、行、無明の講釈頗る面白し。英[ママ]心理学者ゼームス氏の潜在意識も、亦頗る傾聴に価するものあるを覚ふ。

 昭和3年9月から4年6月まで毎月のように山辺の仏教講話が開催されていたようだ。ウィリアム・ジェームズにも言及していたことがわかる。山辺は、当時大谷大学教授(のち昭和18年~19年学長)で京都に住んでいたはずなので、毎月上京していたのだろう。
 島津公爵は、貴族院議員(明治44年10月~昭和21年5月)で、昭和2年12月から海軍大学校教官、3年12月から英国在勤帝国大使館付武官(ロンドン着任は4年2月)である。山辺と島津との関係は不詳である。二人とも英国に留学しているが、期間は重ならない。名和達宣先生や福島栄寿先生なら判るかしら。
 山辺も出てくる大谷栄一・吉永進一・近藤俊太郎編『近代仏教スタディーズ:仏教からみたもうひとつの近代』(法藏館平成28年4月)については、「近代の仏教者達と国家主義団体大亜細亜建設社ーー笠木良明のもとに集まる多田等観・山辺習学・足利浄円・中井玄道ーー - 神保町系オタオタ日記」でも言及したところである。その『近代仏教スタディーズ』は4月に増補改訂版が出るようだ。編者の一人である吉永さんは昨年亡くなったが、近代仏教研究は着実に進展している。吉永さんも見守っていることだろう。

*1:「{」は実際は、「老」「病」「死」の3つにかかる。