神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

キリスト教社会主義者三浦清一(石川啄木の妹光子の夫)と『道』の梅原真隆

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 だいぶ前に太田心海『自叙で綴る梅原真隆の生涯』(『梅原真隆の生涯』刊行会、平成25年7月)だったと思うが、次のような一節を読んだ。梅原が大正14年6月に創刊した個人雑誌『道』に掲載された書簡に関する記述である。

便りの発信人の中には、もちろん彼の講話を直接聞いたり、長い交際のある人も多いが、中には珍しい人の例も載せられている。例えば、熊本の阿蘇山の麓でキリスト教の牧師をしている三浦清一という人である。梅原の『晩年の親鸞聖人』という本を読んで大きな感銘を受けた喜びを述べ、感謝の意を表するものである。ちなみにその三浦牧師は、夫人の父が詩人石川啄木の弟だとのことである。

 調べてみると、正しくは三浦牧師の妻光子が啄木の妹である。この三浦の書簡が載った『道』を読みたいと思ったものの、掲載号の記載がないし、『道』を所蔵する図書館は大谷大学図書館ぐらいなので、それっきり忘れていた。ところが、先日の知恩寺の古本まつりで其中堂が『道』合冊版を1冊500円で出していた。貧乏なので最終日まで待っていたら、売れ残っていて2冊500円に値下げされたので、数冊買ってみた。幸い入手した192号(道発行所、昭和16年5月)に掲載されているのを発見できた。
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 確かに『晩年の親鸞聖人』を「非常なる興味をそゝられて」読んだことが記されている。また、「妻は亦禅宗の僧侶を父とし(石川啄木といふ歌人はその兄です)」とあって、三浦の書き方が悪いが、前掲書は「その」を妻の父を指すと解したのだろう。
 藤坂信子『羊の闘い:三浦清一牧師とその時代』(熊本日日新聞社、平成17年8月)によれば、キリスト教社会主義者だった三浦牧師は、昭和16年12月治安維持法違反で逮捕され、獄中で「皇道主義者」に転向したような文章を残しているという。三浦は梅原の著書を読んで転向したというわけではないが、「少年時代を真宗の家庭で過し」ていたし、梅原の親鸞思想が治安維持法違反者に与えた影響に言及した内手弘太「真宗本願寺派の教学と日本主義ーー梅原真隆を通してーー」*1を読んでいたので、三浦と梅原の関係は興味深かった。
参考:「京大文学部哲学科の宗教学専攻初代卒業生だった瀧浦文彌のキリスト教人生ーー石川啄木の代用教員時代の同僚上野さめの夫ーー - 神保町系オタオタ日記

*1:石井公威監修、近藤俊太郎・名和達宣編『近代の仏教思想と日本主義』(法藏館、令和2年9月)所収