ネットでも読める『国立国会図書館月報』(国立国会図書館月報|国立国会図書館―National Diet Library)3月号及び5・6月号の「国立国会図書館にない本」シリーズの小林昌樹「特価本目録は庶民読書の証言者」を読了。図書館の月報なので並の図書館なら蔵書の自慢をするところだが、さすが懐の深い国会図書館である。所蔵してない本の紹介をしてしまう人気のシリーズである。
今回の小林君の論考は、通信販売用の図書目録である。冒頭、寿岳文章が小学校を出た明治44年頃のエピソードとして、博文館・新潮社・青木嵩山堂などの出版目録を取り寄せて直接購入したことが紹介されている。中島俊郎先生が喜びそうな導入部である。そして、「本ずき」の中でも庶民が安くはない本を買うのにどうしたかというと、次の手段があったという。
・古本を買う
・月遅れ雑誌(新刊雑誌の売れ残りで半値以下)を買う
・特価本(新刊書籍の残本の特価)の目録を利用する
今回の論考は、このうち戸家誠さんから借用した特価本問屋の目録の紹介である。前編は地方書店や露天商など業者向けのカタログ、後編はエンドユーザー、読者向けのカタログが対象である。さすが戸家さんのコレクションで見たことのない目録ばかりである。
ところで、5年前大阪古書会館全大阪古書ブックフェアで古書鎌田から300円で買った特売品目録を持っていたのを思い出した。ようやく見つかったので紹介しておこう。特価本問屋の目録ではなく、出版社である東亜堂書房の創業満10年記念の特売品目録であった。デジタル版日本出版百年史年表によると、東亜堂は明治36年12月創業なので、目録は大正2年(場合により3年)発行ということになる。買ったのは特売品目録だからではなく、書影が150冊も載っている珍しい図書目録であることと、表紙にあの若林書店*1のスタンプが押されていたからである。
買った時に気が付かなかったが、東亜堂は千里眼事件を扱った薄井秀一の『神通力の研究』(明治44年3月)の発行所であった。同書の定価は90銭だが特価で40銭と半額以下になっている。そのほか忽滑谷快天、足立栗園、檜山鉄心、小野福平など変わった本を出す出版社であった。何でもかんでも安売りしたわけではなく、裏見返しには忽滑谷の『養気練心の実験』などの特売を取り消している。何があったのだろう。
「日本の古本屋」には、岩波書店の創業満二十年記念の目録(昭和8年)も出ている。これらが、直接読者が購入できたのか不明だが、小林君の論考への補足としておこう。なお、若林書店は先日の向日市文化資料館における中島先生の講演によると、大正3年寿岳が真言宗立京都中学に入った後に東枝書店*2と共に常客となった書店である。偶然のことだが、寿岳繋がりとなった。