神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

帝国図書館御用書肆としての青木嵩山堂ーー荘門熈編『新選詩学自由自在』の発行年を探るーー

f:id:jyunku:20210105184633j:plain
 新年早々、三密堂書店から荘門熈編『新選詩学自由自在』(青木嵩山堂)を購入。巻之一の序文(越橋逸人)に明治14年5月、巻之四の奥付に発行年月日の記載はないが「東京帝国大学 京都帝国大学 高等師範学校 第一高等学校 学習院 帝国図書館 御用書肆」とあるので購入。明治11年創業、13年から出版社として活動するとされる青木嵩山堂の初期の刊行物と思ってしまったが、今考えると明治14年には存在しない学校・図書館ばかりですね。同様の奥付を持つ『俳諧明治新五百題』について、「近代書誌・近代画像データベース俳諧/明治新五百題」の補記には、「この内容から見て、明治三十年代の発行と思われる」としている。
 青木育志・青木俊造『青木嵩山堂:明治期の総合出版社』(アジア・ユーラシア総合研究所、平成29年9月)を見ると、より深く解明していた。奥付に同様の御用書肆の文言があって年月日の記載がない『王注楚辞』など9冊*1について最も遅い帝国図書館開設の明治30年以降として、更に『古典聚目第二集』(明治31年4月)の奥付に御用書肆として「陸軍幼年学校」も追加されていることから、「明治30年から31年3月の間ということになる。おそらく明治30年の出版ではあるまいか」と推測している。
f:id:jyunku:20210105190309j:plain
 本書の奥付は、御用書肆の記載のほか、発行印刷者、製本発売所、売捌所の記載も興味深い。青木兄弟著によれば、奥付の青木恒三郎の住所(東区博労町)は明治16年8月~明治18年5月、製本発売所である東京店(東京市日本橋通一丁目)は明治17年5月~同年12月、売捌所の四日市支店は明治17年~とされている。これから、本書の初版は明治17年の発行だったのではないかと推測される。気になるのは、国文研所蔵分で「近代書誌・近代画像データベース新選/詩学自由自在」の補記には、「(発兌)嵩山堂本店・嵩山堂支店・嵩山堂分店」とある。青木兄弟著では、四日市の支店が「嵩山堂分店」と記載されるのは、明治20年からとされている。ただし、あくまで青木兄弟が奥付を確認した出版物によればという前提なので、実際の発行時期はもう少し遡るのかもしれない。いずれにしても、私が入手した本書の奥付と記載が異なるので謎は深まる。
追記:「四天王寺の古本まつりでみゆきから「青木嵩山堂製本之記」印のある『近世詩文幼学便覧』を発見 - 神保町系オタオタ日記」で言及した『近世詩文幼学便覧』(明治28年6月再版)の奥付も類似の住所・所在地なので、初版を明治17年とするのは誤りか。
f:id:jyunku:20210106070120j:plain

*1:『新選詩学自由自在』は含まれていない。青木兄弟著の「年次別出版物一覧」にも記載なし。