神保町系オタオタ日記

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日独伊三国同盟の可否を九星学者に尋ねる『明治詩話』の木下彪ーー大東亜戦争は回避できたかーー

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 『日夏耿之介宛書簡集:学匠詩人の交友圏』(飯田市美術博物館、平成14年7月)に驚くべき内容の書簡が集録されている。昭和20年12月26日付け森田草平の日夏宛葉書である。

(略)いつか御話しした宮中にて日独伊同盟に御反対、木下周南から九星学者に会見を申し込んだ件、小生は最近公表せずにゐられないやうな気になって、木下の所へその承諾を申しんだところ、やはり見合せてくれと云つて来ました。宮中の事は複雑ですな。

 日独伊三国同盟に反対の「宮中」に頼まれてか、独自にか木下周南が九星学者に会見を申し込んだという。木下周南は岩波文庫にもなっている『明治詩話』(文中堂、昭和18年9月)の著者木下彪(きのした・ことら)である。クレス出版からの復刻版『近代世相風俗誌集』8巻(平成18年1月)への紀田順一郎の解説によれば、明治35年岡山県生、平成11年没。昭和9年以降宮内省官房及び図書寮勤務。業績として逸せないのが、宮内省図書寮編として上梓された『大正天皇御製詩集』で、後半生は岡山大学教授を務めたという。宮内省でそれほど重職にあったわけでもない木下がどういう経緯で、どういう九星学者に会見を申し込んだのか、もはや確認する術はないか。仮に九星で大凶という結果が出ても、同盟締結が回避できたのか疑問である。しかし、占いの結果が気にはなる。
 『昭和天皇独白録:寺崎英成・御用掛日記』(文藝春秋、平成3年3月)によれば、

 それから之はこの場限りにし度いが、三国同盟に付て私は秩父宮と喧嘩をして終つた。秩父宮はあの頃一週三回位私の処に来て同盟の締結を勧めた。終には私はこの問題に付ては、直接宮には答へぬと云つて突放ねて仕舞つた。
 又この問題に付ては私は陸軍大臣とも衝突した。私は板垣に、同盟論は撤回せよと云つた処、彼はそれでは辞表を出すと云ふ、彼がゐなくなると益々陸軍の統制がとれなくなるので遂にその儘となつた。
(略)
 日独同盟に付ては結局私は賛成したが、決して満足して賛成した訳ではない。(略)

 独白録は戦後に寺崎ら側近が昭和天皇から聞き取ったものなので、必ずしも事実とは限らないが、天皇三国同盟には「御反対」だったようだ。しかし、三国同盟昭和15年9月に締結される。『昭和天皇実録』(東京書籍)によれば、その年3月『大正天皇御集』和歌5冊・漢詩4冊が図書頭から天皇・皇后に献上された。5月6日には編纂完成に関与した図書頭や図書寮事務嘱託の木下らに賜金・賜品があったという。九星の結果を天皇に伝える機会はあっただろうか。

明治詩話 (岩波文庫)

明治詩話 (岩波文庫)

  • 作者:木下 彪
  • 発売日: 2015/03/18
  • メディア: 文庫