神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

神戸へ逃れて来た流亡のユダヤ人を詠んだ歌

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海野十三全集』別巻2(三一書房、平成5年1月)に『大洋』昭和14年10月号のアンケート「僕の大戦観」への回答が載っている。

秘密兵器
ここで欧州に大戦を勃発させたのは、もちろんユダヤ秘密王国の指令によるものであろうと思いましたが、同王国では、この大戦の結果、いかなる収穫を予想しているのかと、それに興味を覚えました。
(略)

海野がどこまで本気で回答したのか不明だが、海野までユダヤ陰謀論を信じていたのかと驚いた。
さて、そんな戦前の日本人の中にも「命のビザ」で知られる杉原千畝のような人物もいたのが救いである。千畝に助けられたユダヤ人たちは、昭和15、16年神戸に滞在した。それを撮影した丹平写真倶楽部の「流氓ユダヤ」については、高橋輝次『雑誌渉猟日録 関西ふるほん探検』(皓星社)の「渡仏日本人画家と前衛写真家たちの図録を読む」にも出てきたところである。写真ではないが、実は神戸のユダヤ人たちを目撃して短歌にした古書店主がいた。「神戸の古書店青甲堂書店の小島清が詠んだ古本短歌 - 神保町系オタオタ日記」で紹介した青甲堂書店の小島清である。小島の『對篁居』(小島清歌集刊行委員会、昭和55年4月)の「龍墟集以後 昭和十年~二十年」に「ユダヤ民族」と題した5首が載っているので、幾つか引用しておこう。

ナチス独逸に追はれおはれて敦賀より朝つきたるユダヤのやから

ビルのかげ鋪道をかぎるあたりよりユダヤの娘のつれだち来る

なりふりをかまはず市場のひとごみに蕪大根を下げくるユダヤ

神戸に滞在したユダヤ難民については、平成28年に神戸市が情報収集をし、文書館で展覧会「神戸と難民たち」も開催されたが、小島の短歌には気付いただろうか。
なお、高橋氏は日本の古本屋のメルマガの「自著を語る」に登場してます→
日本の古本屋 / 雑誌渉猟日録 関西ふるほん探検