神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

明治期教科書の証紙は謎だらけ

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みやこめっせの古本まつり最終日をのぞいてきた。ヨドニカ文庫がまたまた戦前の教科書類を300円で出していて、見返しや奥付の証紙に注目して「証紙買い」をもくろむ。早速、亀谷省軒編『修身児訓』巻之6(光風社、明治13年11月)を発見。見返しではなく奥付に証紙が貼られている上に、よく見ると「亀谷検査之証」ではなく、「亀谷検査之印」とある。「明治14年教科書『修身児訓』に貼られた検印紙 - 神保町系オタオタ日記」で明治14年の文部省通達を受けたものかとした推測は間違っていたことになる(´・_・`)
ここで稲岡勝『明治出版史上の金港堂ーー社史のない出版社「史」の試みーー』(皓星社)に登場してもらおう。39頁に出版社が採った偽版対策の諸類型があがっている。

1 真版の文言を記載した漉入りの別紙を挿入したもの。
2 ‘’真版之証‘’印を扉や別紙に捺印したもの。
3 蔵版之証などとした証紙(印紙)を貼付した上、消印を施したもの。
4 奥付や見返し紙の該当箇所に出版者印を捺印したもの。
4’ 右のうち更に、魁星像ないしその変形と思われる円形の朱印を見返し紙に捺したもの。

類型1は慶應義塾出版社と光風社の2例だけで、後者には亀谷行『修身児訓』(明治13年11年25日版権免許)などがあるという。私が拾った本である(亀谷行は亀谷省軒の本名)。同書は偽版が出るほど良く売れたが、分板によりその需要を満たしたらしく、異版が数種あり、その中に漉入り別紙を用いず、「亀谷検査之印」という証紙を貼付(類型3)した例外(弘文北舎・大島勝海など)もあるという。まさしく、今回私が見つけた証紙だ。分板(分版)は、自社の生産能力では需要に対応できない場合、許可を与えた出版者に新たに版木を彫らせ、それにより印刷製本、販売させたものである。写真の『修身児訓』巻之6の奥付に「分□人」として浪華文会主日柳政愬があがっているが、分板人(分版人)の例だろう。
ところで、類型3の証紙には、著者名を付した証紙があり、これが検印紙につながるようだ。『修身児訓』巻之4に貼られた「亀谷検査之証」を「検印紙」と呼んだのは不適切なので、撤回しておこう。
なお、タイトルは横田順彌『明治時代は謎だらけ』(平凡社、平成14年2月)からお借りしました。
(参考)『修身児訓』巻之4の異版も入手したので2冊並べた写真をあげておく。出版日や製本者、丁数は同一だが、奥付の記載内容が異なるほか、全体の字体が異なる。片方には証紙が無いが、剥がされた穴があり、押印の跡もかすかにあるので偽版ではないようだ。
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