神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

博報堂の瀬木博尚と謎の女性写真師宮本篤子

神戸に古書つのぶえというキリスト教関係書専門の古書店がある。キリスト教にはあまり興味がないから行かないでおこうと長らく思っていた。ところがどっこい、何年か前の大阪古書会館全大阪古書ブックフェアで300円均一コーナーをやってくれて、掘り出し物が多数あった。そのため、ちょくちょく行くようになった。昨年300円で見つけた宮本篤子『簡易写真術通信講義第二巻第三巻合本』(写真術研究会、明治29年12月)はその成果の1冊である。文章の途中の25頁から始まり、64頁まである。53頁以降は前田正名の東京写真館(日本橋区人形町通田所町)の広告である。落丁ありのようなので迷ったが、奥付を見て驚いて確保。
発行兼編輯者が瀬木博尚で、住所が東京市日本橋区本銀町2丁目9番とあり、博報堂の創業地と一致する。発行所の写真術研究会*1の所在地は銀座3丁目27番地である。明治28年博報堂を創業した瀬木が写真術研究会も主宰していたとは、研究者は御存知だろうか。
もう一つ注目すべき点は、執筆者が女性であることだ。宮本篤子は国会図書館サーチやCiNiiの戦前分ではヒットしない。表紙に「宮本篤子先生講述」とあるが、当時無名の女性ではなかっただろうか。宮本先生は撮影準備から撮影、現像まで図解付きで詳細に語っており、写真師だったと思われるが正体が分からない。
女性写真師と言えば、近事画報社にいた謎の女性写真師の正体を突き止めた黒岩比佐子『編集者国木田独歩の時代』(角川学芸出版、平成19年12月)がある。男の職業だった写真師だが、島隆(しま・りう)や塙芳野(本名・大浜はま)といった女性がいたという。しかし、残念ながら宮本は出てこない。「以前から写真の歴史には関心を持っている」という黒岩さんが生きておられたら、何かアドバイスをくれただろうか。
追記:「子」は子爵ということもあり得るのかなあ。ただし、『平成新修旧華族家系大成』(霞会館、平成8年11月)に宮本という華族は立項されていない。そもそも「子」が付いていても、男性かもしれない。

*1:奈良県立図書情報館が写真術研究会編『実地応用素人写真術』(彰文館、明治42年10月)を所蔵している。