神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

明治41年京都御苑内の京都府立図書館で法学を勉強する若者がいた

京都府立図書館は明治31年6月京都御苑内の博覧会協会東館を借り受け、開設された。その後、明治42年4月に現在地の岡崎に移転して開館したので、今年で岡崎開館110周年ということになる。そのため、2月24日(日)まで同図書館で記念展示「京都府立図書館 岡崎110年」を開催中。展示物には武田五一設計と思われる家具、第4代館長湯浅吉郎や福澤諭吉の色紙などがあるが、特に目を引いたのは「半開架式書棚」であった。閲覧希望者が網目の外側から指で本の背表紙を押して、職員に希望する本を伝える方式の書棚である。実物は初めて見た。図書館関係者に限らず本好きの人は是非行かれたい。
さて、ここに明治41年6月から42年1月までの日記が書かれた和本がある。所有者名は書かれていないが、記載内容から京都税務監督局に属として勤めていた若者で、氏名や住所も特定できた。『中学世界』を愛読するこの青年は、文官高等試験を受験する予定だったようで、仕事が終わると京都府立図書館と思われる図書館で法学の勉強をしていた。以下、引用に当たり、旧字を新字に改めた。

(明治四十一年)
七月廿四日 金曜日 晴天
七時起床し出勤し三時退庁して直に図書館に至り民事訴訟法を学ぶ 時に石田憲三来り会し三高に入学出来しとの事(略)
八月四日 火曜日 晴天
(略)
午後一時退庁し田辺尚久と疎水に水泳し巡査に出遇ひて加茂[ママ]川に泳ぐ□□□怒られた
三時半図書館に法律学を勉ぶ六時半佐々木達矢と共に帰家し(略)
八月十九日 晴天 水曜日
(略)退庁の後図書館に至り中学研究を読み三時十五分図書館を出で(略)
八月廿八日 金曜日 晴天
(略)一時十分退庁し図書館に京都府会計法規類纂を読み(略)
十一月七日 土曜日 晴天
(略)二時半退庁し三時法政に至れば休みなり四時より府図書館に至り民法特別篇講義(志田博士)を読み(略)

京都税務監督局は上京区川端丸太町下ルにあり、青年は御苑の西側の同区油小路通下者町下ルに住んでいたので、御苑内の府立図書館は職場からの帰り道にあり、便利だっただろう。41年8月19日の条に出てくる本は山本良吉『中学研究』(同文館明治41年6月)と思われるが、現在も府立図書館が所蔵している。また、同月28日の条に出てくる『京都府会計法規類纂』は府立京都学・歴彩館が所蔵している。なお、11月7日の条の「法政」は京都法政大学(現在の立命館大学)のことで、青年は41年9月に専門部法律科に入学していた。
友人の石田憲三は、いわゆる「一中三高京大」のエリートコースを歩んだ人物で、『内外福井県人士録』1巻(福井黎明雑誌社、大正11年8月)によれば、明治22年生、40年府立第一中学校卒、44年第三高等学校大学予科卒、大正4年京都帝国大学法科大学卒で弁護士になっている。青年もおそらく一中卒だが、『職員録』(印刷局)を見る限り明治45年の段階でも京都税務監督局の属にとどまっていて、その後の経歴は不明である。日記の記載は、明治42年1月で終わっているが、続きの日記が存在すれば、同年4月に開館した今でも目を見張るような外観である武田五一設計の新館についてどのような感想を残していただろうか。