神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

戦時下における京都の青少年の娯楽ーー麻田鷹司の京都市立美術工藝学校時代の日記からーー

京都市立美術工藝学校の生徒だった麻田鷹司の日記については、「京都古書組合のムードメーカーだった若林春和堂の若林正治」で紹介したところである。『麻田鷹司ーー京都市立美術工藝学校時代の日記ーー』(麻田光子、平成12年4月)には、昭和16年4月から19年7月までの日記と20年2月から同年3月までの日記が収録されている。今回は、その日記から麻田が行った展覧会や映画を拾うことにより戦時下の京都における若者の娯楽を見てみる。

(昭和16年)
5月15日 「市展」(京都市立美術館)
同月25日 『潜水艦一号』千本座
6月1日 「麻田弁次氏新作画展」大丸
同月8日 「東丘展」(京都市立)美術館
同月21日 『勝利の歴史』弥栄会館
7月1日 「滑空機展覧会」丸物
同月13日ニュース館
同月31日 ニュース館
8月1日 『ポパイの大平原』朝日会館・・・「漫画」とあるのでアニメか。
同月5日 ニュース館
9月14日 『若い科学者』文映・・・エジソンの少年時代の物語
同月20日石清水八幡宮資料展観」(帝国京都)博物館
同月28日 「聖戦美術展」(大阪市立)美術館、「青龍社の展覧会」梅田の阪急百貨店
10月3日 『人間エヂソン』松竹座
同月11日 「院展」(京都市立)美術館
同月18日 「全日本少年少女発明工夫製作品展覧会」丸物
同月26日 『弥次喜多道中記』千本座
11月1日 「第九回京都府女子中等学校美術展」丸物
同月2日 『大和』試写会、朝日会館
12月6日 「文展」(京都市立)美術館
同月23日 『戦車』ニュース館
同月30日 ニュース館
昭和17年
1月2日 『ハワイ海戦の映画』ニュース館
同月4日 『武蔵坊弁慶西陣キネマ
同月7日 「大東亜戦争の写真展覧会」大丸、『F・P・一号応答なし』文映
同月24日 「最新発明展覧会」丸物
3月1日 「大東亜戦争展」丸物、「大東亜戦争展」大丸、「大東亜戦争展」藤井大丸
同月13日 「(京都市立美術工藝学校)校友会作品展」(京都市立)美術館、『遺志の勝利』京都座
同月18日 『将軍と参謀と兵』千本座
同月25日 『ニュース』長久座
同月26日 『宮本武蔵一乗寺決闘』千本座
4月24日 「必勝祈念展」丸物
5月1日 「市展」(京都市立)美術館
6月5日 「米機の残骸の展覧会」勧業館、「無敵海軍展」大丸
同月13日 「泰西古画展」(京都市立)美術館
同月20日 『朝やけ』階上映画館
8月1日 『明治神宮』・『機関車C57』ニュース館
同月30日 『マレー戦記』京宝
9月19日 『ビルマ戦記』・『北の護り』京宝
10月6日 「院展」(京都市立美術館)
同月31日 「桃山美術と豊太閤」(帝国京都)博物館
12月5日 「文展」(京都市立美術館)
同月6日 『東洋の凱歌』松竹座
同月19日 『ハワイ・マレー沖海戦』千本座
同月28日 『成吉思汗』特別試写会、朝日会館
(昭和18年)
1月22日 「大東亜戦争美術展」(大阪市立)美術館
2月27日 「梅原龍三郎作品展」(京都市立)美術館
3月6日 『陸軍航空戦記』京映
同月20日 「陸海軍献納画展」(京都市立)美術館
同月27日 『桃太郎の海鷲』・『戦ふ、護送船団』松竹座
5月1日 「市展」(京都市立)美術館
同月2日 『シンガポール総攻撃』松竹座
同月29日 「海軍献納画展」(京都市立)美術館
同月30日 『海軍戦記』松竹座
6月19日 「ユダヤと秘密結社展」丸物
同月27日 「勝田先生の南方素描展」・「京都在住洋画家滞欧作画展」(京都市立)美術館
7月1日 『室生寺』・『法隆寺』日本文化講座上代編、朝日会館
8月9日 『急降下爆撃隊』松竹座
9月5日 『世界に告ぐ』京宝
同月17日 『愛機南へ飛ぶ』松竹座
同月27日 『決戦の大空へ』松竹座
10月24日 「速水御舟作品展」(京都市立)美術館
同月30日 「山城物刀剣特別展観」(帝国京都)博物館
12月1日 「文展」(京都市立)美術館
同月2日 『海軍』特別発表会 松竹座
同月22日 「決戦美術展覧会」大丸
(昭和19年)
1月23日 「アメリカ映画に於けるユダヤ思想謀略展」大丸、『空の神兵』ニュース館
2月5日 『東大寺』・『興福寺』・『日本ニュース』・『ホーネット撃沈日本ニュース』朝日会館第二回日本文化講座
2月19日 『勲功十字章』京宝
4月6日 「航空機の機密」大丸
4月8日 『偉大なる王者』松竹座
6月4日 「陸軍美術展」(京都市立)美術館・・・半時間余り待って入ったが、美術館開館以来かと思われる人出でゆっくり観る気もしないので、後日改めて来ることにした。
6月7日 同上
同月25日 『轟沈』弥栄会館
(昭和20年)
2月24日 『海の薔薇』松竹座
3月1日 「戦時特別美術展」(京都市立)美術館
同月7日 『ニュース映画』新聞会館

展覧会に頻繁に行っているのは、麻田が絵画科の生徒であり、また父親弁次が日本画家なので当然のことで、当時の一般の若者に比べれば多いのであろう。昭和18年6月19日の「ユダヤと秘密結社展」が気になるところで、麻田は「ユダヤの陰謀の恐ろしさが、よくわかった」と書いている。
映画も頻繁に観ているが、当時の若者はこんなものか。ただ、試写会は父親のつてかもしれない。時局柄戦争関係のものが多い。ニュース館というのは、ニュース映画ばかり上映したのか。九段下の昭和館に行くと、戦前のニュース映画が見られるね。
茶店がさっぱり出てこないのは残念。戦時下の京都における喫茶店はどういう状況にあったのだろうか。ただし、17年5月15日四条の不二屋[ママ]でココアを飲んだり、同年8月12日旅行先の長野県菅平の白樺荘でコーヒーを飲んでいる。
日記によれば、展覧会、映画の他に娯楽としては、海水浴、花見、蛍取り、祇園祭京都市紀念動物園などが記されている。戦時下といっても、真っ暗闇な青春ではなかったわけだ。戦局が特に悪化した昭和20年の日記は虚弱体質の生徒だけが集められた健民修練所における2月9日から3月9日までの分しか残っていないので、展覧会や映画がどういう状況だったかがわからないのは惜しい。
なお、8月19日まで何必館京都現代美術館で「現代風景画の指標 麻田鷹司展」を開催中。