神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

戦時下の雑誌統廃合が進む中でも創刊された同人雑誌『四国文化』

何やら大雨でブログをアップしてる場合ではないような気もするが、本が使えるうちに書いておこう。
富士正晴野間宏・桑原静雄により昭和7年10月創刊された同人雑誌『三人』は戦時下の昭和17年6月廃刊された。その経緯は富士の「同人雑誌『三人』について」によれば、

廃刊となったのはその頃、同人雑誌を統合することを政府から強制されたからで、「朱緯」の荒木利夫には『三人』と「朱緯」とを軸として二、三の同人雑誌も加えて一つの詩雑誌となろうとすすめられたのを断って廃止にふみ切ったのであった。(略)色々の傾向の同人雑誌が一つに強制的に固められることは耐え難かったし、不純粋なような気がわたしにはしたのだった。(略)もう一つ、日本出版文化協会*1として、いろいろ繁瑣な届書を出すのにも閉口していたということもあるように記憶する。

この例のように戦時下における雑誌の出版状況としては、とかく廃刊にばかり注目してしまう。たとえば、福島鋳郎編著『戦後雑誌発掘ーー焦土時代の精神ーー』(日本エディタースクール出版部、昭和47年8月)に「主要廃刊雑誌一覧(昭和十九年九月現在)」や「企業整備後の残存主要一般雑誌一覧(昭和十九年十月一日現在)」は載っているが、創刊雑誌一覧なんてのはない。しかし、『雑誌・創刊号蔵書目録<慶応ーー昭和>』(大塚文庫、昭和61年7月)によれば、昭和17年から19年までの間に内地では90冊ほど雑誌が創刊されていることがわかる。何年か前に入手した『四国文化』第1輯(四国文化社、昭和18年9月)という51頁の非売品の雑誌も戦時下に創刊された同人雑誌である。編輯兼発行者は香川県三豊郡観音寺町の原肇。目次の一部をあげると、

撃ちてし止まむ 池田哲
ヒマの種をまく 西口藤助
詩 二章 志邨節
烏賊の釣れる頃 塩谷安郎
桃咲く日 橋本史芳
生れて来る子供よ 山下道子
盡忠の血 木村松次郎
誘蛾燈 恩地淳一
野蛮人 松村嘉雄
家庭 二木洋子
二つの手紙 大塚雪郎 池田哲
感想時評
夏花 奈良本角三
お麗さん 南條秀子
浄罪の門 原肇
編輯後記

知らない人ばかりで、『日本近代文学大事典』の索引で見ても木村松次郎が載ってるだけである。同事典第5巻には短歌雑誌『蒼生』を昭和15年12月に白秋系の筏井嘉一とともに創刊した一人として木村の名前が挙がっているのだが、『四国文化』に短歌を載せた木村と同一人物かは不明である。
各地の同人雑誌と交流があったようで、「感想時評」では、九州文学の篠原二郎、四国文学の光田稔・村上栄子・長坂一雄、大阪詩人の廃刊、関西文学の志賀白鷹、現代詩人社の並河嘉一、大阪文化の会に言及している。
地方の用紙状況によっては本誌のように同人雑誌を創刊できたのだろう。ただ、「編輯後記」に「香川県文学報国会理事志邨節氏の御親切なる御指導を賜り、印刷所のことから何から何まで御世話になりまして刊行出来た次第」とあり、やはりコネがないと戦時下の同人雑誌発行は難しかったのだろう。

*1:同人雑誌だが、発行所の三人発行所は日本出版文化協会に入っていたことになる。