神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

青田寿美『蔵書印の話』を夢見る頃ーー小谷方明『蔵書印の話』を読んでーー

昨年移転した阪急古書のまちは、特にリーチアートが入りやすくなった。小谷方明『蔵書印の話』(和泉郷土文庫、昭和22年5月)はそこで見つけた一冊。国会図書館になし。
内容は、「日本の蔵書印」、「蔵書印の歴史」、「蔵書印の使ひ方」、「蔵書印文の種類」、「蔵書印の形態と書体」、「蔵書印の印材と印肉」、「白水石工房の蔵書印」と題した文章のほか、「和泉郷土館印」、「和泉郷土文庫」などの印影である。「蔵書印文の種類」では、堤朝風の「第一と第二のゆひもてひらくへし、よみたるさかひにをりめつけ又爪しるしする事ならぬ」や長澤伴雄の「我死ナハウリテ黄金ニカヘナヽムオヤノ物トテ虫ニハマスナ長澤伴雄蔵書記」などを紹介している。なんとも長い蔵書印である。和紙で10頁ほどの小冊子、印刷は松本市の石曽根民郎。
小谷の経歴は、『大阪春秋』20巻3号(大阪春秋社、平成3年10月)野堀正雄「追悼小谷方明*1先生ーー郷土史・民俗研究から民具研究へーー」によると、

明治42年5月19日 現堺市豊田生
昭和5年 立命館大学専門部中退。「和泉郷土文庫」を邸内に設ける。
6年5月 『郷土和泉』創刊
7年5月 『和泉古瓦譜』を和泉郷土文庫叢書第一輯として出版
8年 宮本常一と和泉里談会結成
9年10月 柳田國男指導のもと大阪民俗談話会開催
14年 『大阪府民具図録』(和泉郷土文庫第二輯)出版
46年 小谷城郷土館設立
57年 『大阪の民具・民俗志』出版

また、編集部が『大阪春秋』同人で近畿民具学会会長の小谷が平成3年8月2日亡くなったことや戦前の雑誌『上方』の執筆者の数少ない生存者だったことを付記している。小谷城郷土館は現在も堺市で開館していて、民具、古瓦、須恵器のほか、川崎巨泉の版木・版画もあるようなので、一度行ってみたいものである。→ホームページ「小谷城郷土館
なお、小谷は、板祐生の孔版蔵書票の会会員でもある。「日本の古本屋」で呂古書房が出品しているが、石曽根民郎『蔵書票の話』(白水石工房、昭和21年)には小谷作の木版蔵書票が貼り込まれている。
ところで、「蔵書印」を「国会図書館サーチ」で検索してみたが、蔵書印に関する一般向けの著作はないようだ。岩波新書あたりにあってもよさそうなもんだが。青田寿美先生に岩波新書(中公新書もよさげ)から『蔵書印の話』というような本を出してもらいたいものである。

*1:ルビは「こたにみちあきら」。