神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

ホノルルで刊行された高畠華宵装幀の横山松青句集『アイカネ』

いつもお世話になっている三密堂書店の100円均一コーナーで箱の背に『アイカネ 横山松青句集』と書かれた本を発見。句集には興味がない上に未知の人物なので通常なら黙殺だが、最近句集の中にも生前興味深い経歴を有した人物の遺句集のような物があると気付き、できるだけ中を見てみることにしている。今回も箱から取り出してみると、発行所はホノルル市の青夏吟社、著者の横山は同市在住。昭和35年3月発行の非売品、306頁で「MADE IN JAPAN」とある。印刷所が京都市南区の大宝印刷なので、その関係で京都の古本屋に出回ったのだろうか。
目次を見ると、昭和5年ヒロ市で前原一星と名乗っていた時代の作品から戦時中アメリカ本土で抑留された時期を経て、戦後ホノルル市で横山松青に改名し現在に至るまでの作品集であった。遺句集ではないが、面白そうな経歴の人物だし、更に箱の「椰子とカヌー」と見返しの「珍魚マニニ」は高畠華宵の作画である。ということで、確保。調べて見ると、国内に所蔵する図書館は皆無の上、「日本の古本屋」でもヒットしない。
著者の詳しい経歴は不明だが、小林茘枝『布哇俳壇史』(近代文藝社、平成3年10月) には、著者について、

前原一星こと横山松青が俳句の道に入ったのは一九〇五年(明治三十八)ハワイ島のヒロ郵便局に勤めていた頃で、先ず「ヒロ蕉雨会」に入会しホノルルの「青夏吟社」にも係わりを持ち、布哇タイムスの新年俳句の選者にもなった。

とあった。表題の「アイカネ」は現地の言葉で「友」を意味するそうで、横山の「後記」によると、俳句は最も親しいアイカネで、特に戦時中の4年間を米大陸の鉄柵内で抑留生活をした間、そのアイカネによって精神的に慰められたことは実に計り知れぬものがあったという。そんな抑留時代の横山の一句。

水打つて固む砂漠や日本村

なお、かわじもとたか編『装丁家で探す本ーー古書目録に見た装丁家たちーー』(杉並けやき出版、平成19年6月)に高畠装丁本は11冊挙がっているが、本書は未記載である。

装丁家で探す本―古書目録にみた装丁家たち

装丁家で探す本―古書目録にみた装丁家たち