神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

土俗趣味社の『百人百趣』ならぬ『百人一趣』を確保ーー『柳田國男全集』の誤りを正すーー

大阪古書会館の古本市で『百人一趣』上・下(土俗趣味社、昭和21年)を発見。謄写版上巻98頁・下巻108頁、非売品100部限定の本で五千円もするが、柳田國男斎藤昌三、尾崎久弥、九十九黄人、島田筑波、頴原退蔵、田中緑紅、東條操、中山太郎らそうそうたるメンバーが執筆し、上巻の表紙題字は斎藤である上に限定版趣味誌によくあるように資料の貼り込みもあるので、購入。
帰って調べて見ると、上巻巻頭の柳田の「山帽子」は、『定本柳田國男集』(筑摩書房、昭和39年11月)に収録されていた。しかし、初出に当たれなかったという『柳田國男全集』31巻(筑摩書房、平成16年2月)とともに出典を『百人百趣』上巻としているが、正しくは『百人一趣』であった。また、発行年月については、定本の「内容細目」は昭和21年12月、「書誌」は同年10月とし、全集は同年10月の方を採用。本書下巻には昭和21年12月20日発行との記載があり、「巻後に」には「上巻発刊以来約半歳余」とある。また、寄稿者の執筆年月で最も古いのは、島田清「姫路板「兵庫くどき」研究の思ひ出」で「(昭和二十一年七月二十六日稿)」である。上巻には発行年月日の記載はないが、「山帽子」の末尾に「(昭和二十一年六月十七日)」とあるほか、寄稿者の執筆年月の多くは同年6月であるが、島田筑波の「並河源章」には「一九四六.七.一五稿」と、池野精志「土曜丑の日に鰻を食ふわけ」には「(八・二)」とある。同年8月発行とすると12月までは4月強となり「半歳余」と言うのは違和感があるが、同年8月発行ということになろうか。いずれにしても、同年10月発行は誤りである。本書と定本の校合をして見ると、読点の有無や「伊賀國の柘植の郷」が「伊賀國柘植の郷」になっていたり、微妙な違いがあった。筑摩書房に情報提供せねばいかんかのう。
なお、本書は土俗趣味社の創立二十周年記念として発行されたものである*1。全集解題によると、同社発行の雑誌『土の香』は「加賀治雄(紫水)が毎月定期的に発行していた「土俗趣味研究雑誌」で、柳田の評価を受けた数少ない地方を拠点とする研究雑誌のひとつ」という。樹林舍から復刻版を発行中のようだ。

柳田国男全集〈31〉昭和18年~昭和24年

柳田国男全集〈31〉昭和18年~昭和24年

翻刻版 土の香 第9巻: 土俗趣味雑誌

翻刻版 土の香 第9巻: 土俗趣味雑誌

*1:本書下巻の加賀紫水「細道を回顧する」によると土俗趣味社の創立は昭和3年4月15日なので実際は20周年に達していない。なお、定本書誌は「土の香二十周年記念」としている。