神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

甘粕正彦の秘書伊藤すま子と編集者浜野

石川達三『流れゆく日々Ⅰ』(新潮社、昭和50年4月8刷)に甘粕正彦の元秘書で銀座ベレーのママという女性が出てくる。

(昭和四十五年)
十一月十九日(木)雨
(略)
浜野君雨の中を来訪。満洲育ちは雨がきらいだと言う。(略)私の随筆集出版の相談。
彼は終戦のとき満洲で自決した甘粕正彦の事蹟を慎重に調べている。ずいぶん人にも会い資料もそろえているらしいが、一向に書こうとしない。それは彼の慎重さであるらしいが、結果的には非能率的で、怠惰とも見られる。あまりにも完璧な仕事をしようと心懸けていると、結局何もしないことになってしまう。(略)
(昭和四十六年)
三月一日(月)曇
(略)
午後浜野君来訪。私の随筆集を出すことについての相談。また彼が資料を集めている甘粕正彦について、甘粕の身辺に居た人を紹介する約束をとりきめる。
(略)
夜七時、再び浜野君に会い、銀座裏の(ベレー)という小さな酒場へ行く。居酒屋風の気楽な店。そこの女主人は十六七のころ満洲で、四五年も甘粕氏の身辺の世話をしていた人。(とても良い小父さま)だと思っていた由。最後の朝も、毎日の習慣に従って彼女が茶を持って行くと、その茶で甘粕は服毒した。気がついて最初に飛びこんで行ったのが彼女と内田吐夢であった。(略)浜野君は改めて彼女からなまの資料を聞かせてもらう打合せをして、今日の紹介を終る。(略)

この女性だが、佐野眞一甘粕正彦 乱心の曠野』(新潮文庫、2010年10月)によると、伊藤すま子さんで昭和21年8月に内地に引き揚げ、31年にベレーを開店。平成16年に閉店するまで、内田はじめ満映OBのたまり場だったいう。
ところで、編集者の浜野は甘粕について調べていたようだが、結局日の目は見なかったのかな。

甘粕正彦 乱心の曠野 (新潮文庫)

甘粕正彦 乱心の曠野 (新潮文庫)