神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

金沢市立図書館長小河次吉=小河阿丘と装釘同好会

昭和5年3月31日から6年5月28日まで金沢市立図書館長を務めた小河次吉という人がいる。『簡約日本図書館先賢事典』によれば、

小河次吉 おがわじきち 1900−1931
1921/金沢高工(金沢大学)図書館,1927/理化学研究所図書館,司法省図書館,1930/金沢市立図書館館長

一方、小河阿丘という人物がいる。「形体美小論」『製本』昭和3年3月号には、肩書きは「理化学研究所図書課」で、「附記」に「小河阿丘氏は嘗て金沢高工図書館に在り、その著「図書館及図書語彙」は斯界に珍重され、製本装幀美学の一権威である」とある。また、4年3月10日、12日、13日の読売新聞に連載した「近頃装幀の雑談」の肩書きには「司法省調査課」と、5年4月28日付東京朝日新聞「本と人」の末尾には「金沢市立図書館にて」とある。これらにより、小河次吉と小河阿丘が同一人物と判明した。

次吉の『英和図書館及図書館語彙』(丙午出版社、昭和2年7月)は書物蔵氏も入手している*1ようだが、装釘同好会の阿丘と同一人物とは気づいていないようだ。装釘同好会については、昭和4年5月2日付『文藝時報』に、

今度和田萬吉博士を会長に今澤慈海、板垣鷹穂、石田幹之助、一氏義良、稲葉熊野、長谷川巳之吉恩地孝四郎、小穴隆一、小河内(ママ)阿丘、和田利彦、田中房次郎、谷津猛、牧祥之助、郡山幸男、赤坂七郎、北原鐵雄、宮下孝雄、庄司浅水、杉浦非水氏等の同好者が集まり、本郷区駒込動坂町三七五小河氏方に事務所を置いて装釘同好会を作り、稲葉、小河、庄司三氏が常任幹事として斯界の発達改善を計る事になつた(会費五十銭)

とある。図書館員、装釘家、出版社、製本屋などの集まりである*2。阿丘は、『図書館雑誌昭和3年10月号の「図書館本の美化」で、

吾々図書館員の仕事も工学や数学書類のみ扱つてゐては余り面白くないと同様実用一点張りの装幀本を扱つてゐても決して愉快なものではない。こゝで面白く思ふのは比較的堅い書物を扱つてゐる専門的図書館には製本に凝るところが多く、通俗本を扱ふ公衆図書館では製本の方は只安く出来て丈夫であればよいと云ふ方が多い様に見受けるのであるがこれらがよく各館員の気持の満不満の表裏を説明してゐる様である。それで各がこゝで一歩進んでこの両点を受け入れるならば館員はより仕事に興味を持つことが出来、閲覧人はより図書館本に親しむことが出来るのではあるまいか。

と書いていて、装釘に一家言をもつ図書館員であった。今後も注目すべき存在だ。

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吉川弘文館から『日記に読む近代日本』全5巻の「4昭和前期」が出てた。最近「日記から読む〜」という種類の本が増えてきた。

日記に読む近代日本 4: 昭和前期

日記に読む近代日本 4: 昭和前期

*1:「書物蔵」(2005年9月16日

*2:「日本語練習中」の「岡茂雄の造本と装釘同好会」参照。