『断腸亭日乗』に国木田虎男夫妻が出てくる次の記述については、既に述べた*1。
昭和2年8月13日 蚤く起き出でホテル門外の街を歩む、偶然活動株式会社の北沢氏に会ひ(略)北沢氏の紹介にて始めて国木田独歩の男乕男氏夫妻と語る、夫人は女優六条氏の妹なりと云ふ、断髪にして洋装なり、ホテルの食堂にて昼餉を倶にす、
8月17日 北沢氏国木田夫妻と卓を共にして昼餉をなす、
この「女優六条氏」は、他の条にも出てくる。
六条波子はのちの六条奈美子。本名石川マキ、明治35年新潟市生まれ。国木田虎男夫人は、離婚した後香取幸枝の藝名で女優となり、団鬼六の父黒岩と駆け落ちするが、奈美子の妹だったということになる。香取は、ググると、昭和3年1月公開の服部真砂雄監督「熱球は飛ぶ」(大日本活劇プロダクション)に出演しているようだ。なお、『小説新潮』7月号から連載の始まった大崎善生「赦しの鬼 団鬼六の生涯」*3では、国木田夫妻は昭和2年の早い時期に離婚したと推定しているが、『断腸亭日乗』の記述によると8月以降ではないかと思われる。 ただし、同日記の国木田夫人が後妻*4という可能性はなくはない。