私は久米さんの講演を二、三回聴いたことがある。一度は九段の軍人会館であつたか、昭和十五年の紀元節の前夜、菊池寛、横光利一、室生犀星と云つた人達の文芸講演会があつた。司会者は久米さんで、ユーモアに溢れた司会振りの中に何か淋しさが漂つてゐて、その夜の久米さんの風貌と共に後々まで印象に残つた。
この講演会だが、横光の全集の年譜昭和15年2月の項に東京日日新聞・大阪毎日新聞主催の文芸講演会で「現代文学」について講演とあるので、開催されたことは間違いないようだが、詳細は不明。久米には淋しさがつきまとったようで、小谷野敦『久米正雄伝』の最終章のタイトルも「淋しき人」である。