神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

久米正雄の噂をする谷崎潤一郎

宇野浩二の昭和28年11月18日付広津和郎宛書簡*1によると、

昨日(略)ちかくの『米村』に行つて、カンタンな食事をしたところ、新橋演舞場の文学祭の話が出て、その晩に来た火野君に一枚だけキツプをもらつたからといつて、夫婦に同伴をさそはれたので、第一部のをはつた時間に、行つてみた。(略)『鈴ケ森』は久保田君の権八が、ふとつてゐるので、なにかモタモタしてゐて、思つたよりまづく、江戸川君の長兵衛はセリフに勢ひがなく(略)
廊下ではからず谷崎にあつたが、いきなり久米の話が出て、「僕たちも・・・」といつたから、僕が、「僕はそんなことはない、」といふと、谷崎は、青野もちかごろ片足が不自由になつて・・・とこぼしてゐた。谷崎のグチはなほらないね。

「谷崎」は谷崎潤一郎、「久米」は久米正雄、「青野」は日本文藝家協会会長の青野季吉と思われる。最初は、昭和27年3月に脳溢血で亡くなった久米がいつまでも噂になったのだなあ、と思った。しかし、調べてみると、28年とされているのは、26年の間違いだ。江戸川乱歩が幡随院長兵衛役、久保田万太郎が白井権八役となった日本文藝家協会主催の文士劇新橋演舞場で開催されたのは、26年11月17日である。「久米の話」とは、久米が高血圧の治療を受けていたことを指していたのだろう。

追記:潤一郎ではなく、弟の精二の方だったみたい。

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東京堂書店の今週のベストセラー(12月7日調べ)で、『パンとペン』は第6位。

1 新・人間革命22 池田大作 聖教新聞社
2 東京大学で世界文学を学ぶ 辻原登 集英社
3 革命的飲酒主義宣言−ノンストップ時評50 坪内祐三 扶桑社
4 電子本をバカにするなかれ 津野海太郎 国書刊行会
5 電子書籍奮戦記 萩野正昭 新潮社
6 パンとペン 社会主義者堺利彦と「売文社」の闘い 黒岩比佐子 講談社
7 A3 森達也 集英社インターナショナル
8 作家の家コロナ・ブックス 156 平凡社
9 星のあひびき 丸谷才一 集英社
10 帝国ホテルの不思議 村松友視 日本経済新聞社

*1:増田周子編『宇野浩二書簡集』和泉書院、2000年6月。