私が、初めてラーマーヤナというインドの古代叙事詩を知ったのは、恥ずかしながらデニケンの『未来の記憶』ではないかと思う。
ラーマヤーナには、空中飛行機のヴィマナが水銀と強風の力で高空を走ることになっているが、それを読んでもわれわれはべつに驚かない。ヴィマナは無限の距離を飛べ、下から上へ、上から下へ、後ろから前へ動ける。うらやましき操縦性である。
「ああ、こんなところにも宇宙人が太古地球に来訪していた痕跡があるのだなあ」と、思ったものである(笑)。
さて、谷崎潤一郎は、いつラーマーヤナと出会っただろうか。
谷崎は、『玄奘三蔵』(『中央公論』大正6年4月)でラーマーヤナの歌謡を引用している。また、細江光先生によると、滝田樗陰は、「谷崎氏に関する『雑談二三』」(『新潮』大正6年3月)で、当時谷崎が“the Ramayana and the Mahabharata”を読んでいたことを報告しているという。また、ラーマーヤナについては、武林無想庵から聞いたようで、谷崎自身が、『むさうあん物語7』(昭和33年7月)の序に、
宮下町時代にはこの博学の先輩(無想庵のこと−−引用者注)に実にいろいろのことを教へて貰つた。ラーマーヤナの話、楞伽経の話、摩訶止観の話、ウイリアム・ジェームスのプルーラルステイック・ユニヴァースの話、ゾラの諸作品の話、振鷺亭の読本の話等々々(後略)
と書いている。
また、谷崎は、『ハツサン・カンの妖術』(『中央公論』大正6年11月)で、ラーマーヤナについては言及していないが、同じくインドの古代叙事詩であるマハーバーラタに言及しているほか、
予が彼(ハツサン・カンのこと−−引用者注)に就いて 稍々詳細な知識を得るに至つたのは、つい近頃で、ジヨン・キヤメル・オーマン氏の印度教に関する著書の中に、此の魔術者の記事を見出してからである。
と書いている。これらのことから、大正6年には、ラーマーヤナなどの古代インドの叙事詩・神話などに強い関心を持っていたことがわかる。なお、「ジヨン・キヤメル・オーマン氏の印度教に関する著書」が実在し、谷崎が『ハツサン・カンの妖術』を書く際の重要な参考文献だったことを明らかにしたのも、細江先生である。実は谷崎には、大正4年にはラーマーヤナ及びオーマンの書の存在を知る機会があった。
既に言及したが、大正4年6月22日付読売新聞「よみうり抄」に「谷崎潤一郎氏は小説「華魁」の続編を「アルス」7月号に寄せたりと」とある。ところが、『ARS』1巻4号(大正4年7月)の「編輯手記」には、「谷崎氏の「華魁」の続稿(略)は締切に間に合はなかつたので、遺憾乍ら次号迄御待ち願ひたい」とあり、7月号には載らなかった。いや、理由は不明だが、結局「華魁」は同誌の廃刊まで載ることはなく、未完に終わった。
谷崎は、「華魁」の続編が載るはずだった『ARS』の8月号に自分の名がないのを見て、雑誌を放り出しただろうか。それとも、そこに載っていた松村武雄「ラーマーヤナ物語」を読んだだろうか。そこには、次のような一文があった。
(参考)8月28日
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