神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

島尾敏雄が聞いたNHKラジオ「社会探訪」の「山窩の瀬降りを訪ねて」

『新潮』連載の「島尾敏雄 終戦後日記」が終了。楽しませていただいたが、先月号の昭和25年9月9日の条には驚いた。

昭和25年9月9日 Radioの社会探訪、山窩のセブリを尋ねての録音。突然新聞記者がフラッシュをたいたので山窩の女房怒る。心にしみて残る。

これは、NHKのラジオ番組「社会探訪」で、三角寛がNHKのアナウンサーをサンカの瀬降り(天幕)に案内していたら、無断でついてきた新聞記者らがサンカの女房が裸で箕を修理しているところを撮影したため、女房が怒って鎌を持って、カメラマンを追いかけた事件だ。島尾が、そのラジオを聴いていて、日記に書き残していることにも驚くが、サンカの女房が怒った部分まで放送されていたとは初耳で、驚いた。というのも、三角は『山窩物語』で、

ところが、その放送をきいていて私はがっかりした。もっとものクライマックスである女房が鎌でカメラマンを追った前後、藤倉君*1が小田君*2を呶鳴るところなどがすっかり消されてい、私を編集に立ち会わせてまとめたところを無断で消してある。藤倉君に詰問したら、小田君が重役に土下座をして三拝九拝によって、一生の願いとして拝みたおし、このクライマックスの段までついにカットしたのだという。

と書いている。また、昭和25年8月26日に収録され、同年9月1日・8日の二回に分けて放送されたこの放送は『マージナル』1号(1988年4月)で再録されているが、騒動があったような記述はないのである。しかし、島尾の日記によれば、どうやら、騒動のかなりの部分はカットされたものの、サンカの女房がフラッシュに怒った時点までは放送された、というのが事実のようだ。

(参考)昭和25年8月27日読売新聞朝刊によると、

酔うほどにひろさんのおしゃべりは度を越えて写真班がたいたフラッシュの光に興奮、あわやウメガイ(山刃)が飛ぶかと思われるようなさわぎになつたため三時間にわたる録音もそこでおしまい

*1:NHKのアナウンサー藤倉修一。

*2:NHKのプロデューサー。小田が「社会探訪」でサンカのセブリを訪問することを記者クラブに事前発表したことが、この騒動発生の原因となった。