神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

反古にされた三浦関造の断訳宣言

三浦関造の断訳宣言の後も、翻訳書が幾つか出ているようなので、変だなと思っていたら、断訳宣言は反古にされたようだ。
為藤五郎編『現代教育家評伝』(文化書房、昭和11年1月)*1によると、

三浦関造(福岡県)翻訳・著述家
(略)
▽その君が、先年何とかいふ、長い小説を発表した。そして向後一切翻訳の筆は捨てると宣言し、専ら創作方面に地盤を開拓しつゝあつたが、今度は忽如として、更に創作の筆を捨てる、と宣言したやうに記憶して居る、
▽にも拘らず、君はその宣言をも反古にし、今では創作をも翻訳をも例の健筆を以て続けて居るやうである。(略)
▽しかし、君が自身の宣言を反古にしたところで、世間は少しもこれを咎めない。それは何の故であるか。君の処世の上に技巧はあつても、それは少しもわざとらしい成心や功利に出発して居ない。すべてが天真爛漫の発露であるからである。君は本来立派な詩人、熱情家なのである。
▽君の旧師野口援太郎氏*2は曰ふ。『三浦は自分のところに来ると、何時でも借金の話ばかりして帰る』と。その一語の裡に君の性格が躍動して伺はれるではないか。 

(参考)5月9日

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今月18日は、「国際博物館の日」なので、その日を中心として、無料の博物館等がある。電車賃を使っても、トチゲキ。なお、「星新一展」の世田谷文学館は、22日が無料。

*1:大空社から復刻。

*2:野口は、大正12年8月下中弥三郎、為藤五郎、志垣寛と教育の世紀社を創立。同社から、大正13年12月野口と三浦の共訳でタンスレイ『新心理学』を刊行。「訳序」によると、「本書の訳は多忙な私に取りては非常に困難でありましたから、私は放膳流暢の筆致を以て有名な友人三浦関造君に託して分り易く、しかも読んで面白いようと云ふ六かしい注文をつけて、訳して貰つたのであります。そして私が更に再三校正しました」という。