神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

あれもSF、これもSFだった時代

かつて、「あらえっさっさの時代」、じゃなかった、「あれもSF、これもSF」と称された時代があった。SFの「浸透と拡散」を迎える前の時代で、市民権を得るためか、あの文学者のこの作品は、実はSFなのだとされた時代である。たとえば、『世界SF全集第34巻』(1971年)を見ると、

(第一部)押絵と旅する男(江戸川乱歩) 、鏡地獄(江戸川乱歩)、 恋愛曲線(小酒井不木)、 人造人間(平林初之輔)、 灰色にぼかされた結婚(木津登良)、 ロボットとベッドの重量(直木三十五)、 兵隊の死(渡辺温)、 振動魔(海野十三)、 十八時の音楽浴(海野十三)、 特許多腕人間方式(海野十三)、 髪切虫(夢野久作)、 人間レコード(夢野久作)、 卵(夢野久作) 、「太平洋漏水孔」漂流記(小栗虫太郎)、 音波の殺人(野村胡堂)、 せんとらる地球市建設記録(星田三平)、 七時〇三分(牧逸馬)、 地底獣国(久生十蘭)、 網膜脈視症(木々高太郎)、 ニッポン遺跡(抄)(大下宇陀児)、二千六百万年後(横溝正史)、 脳波操縦士(蘭郁二郎) 、ジャマイカ氏の実験(城昌幸) 、みなごろしの歌(渡辺啓助)、 月航路第一号(北村小松)、 オラン・ペンデクの復讐(香山滋)、 オラン・ペンデク後日譚(香山滋)
(第二部)銀河鉄道の夜(宮沢賢治)、 覚海上人天狗になる事(谷崎潤一郎)、 抒情歌(川端康成)、 微笑(横光利一)、 一千一秒物語(抄)(稲垣足穂)、 似而非物語(稲垣足穂)、 東京日記(内田百間)、 山月記(中島敦) 、かろやかな翼ある風の歌(抄)(立原道造)、 猿ケ島(太宰治)、 夜長姫と耳男(坂口安吾)、 潜在意識の軌道(伊藤整)

第一部は主としてS(サイエンス)派、第二部は主としてF(ファンタジー)派。特に第二部は、今から見るとSFかいなと思う作品が多い。編者の石川喬司氏も解説で「<第二部>の作品リストをみて、「これがSFとどんな関係があるのか」と訝る向きが多いかもしれない。そういう疑問を起こさせることこそ、編者のねらいなのである」と言ってはいるが。ちなみに、石川氏によると、第二部の作品も原則として昭和前期に限ったため、多くの秀作を割愛したとしている。ぜひ入れたかった作品として、たとえば、

谷崎・・・「人面疽」、「ハッサン・カンの妖術」、「柳湯の事件」、「友田と松永の話」
志賀直哉・・・「前世」
佐藤春夫・・・「女誡扇綺譚」
芥川龍之介・・・「河童」
井伏鱒二・・・「冷凍人間」

をあげている。谷崎も、いっぱいSFを書いていたのね。