神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

原阿佐緒の恋愛感を決定づけた村井弦斎の小説

黒岩さんも少しずつ元気を回復しつつあるようなので、強烈な弦斎ネタを投入。
原阿佐緒石原純との関係で知られる美人のようだが、村井弦斎の小説の愛読者だったという。原の伝記小野勝美『原阿佐緒の生涯』によると、明治36年宮城県立高等女学校三年生に進級したばかりの時に、肋膜を患い、中退の止むなきに至ったが、多くの読書の機会を得たという。そして、

村井弦斎の作品も数多く読んだが、その度に「女の運命のかなしさだけを知り、それに不思儀(ママ)な魅惑を感じて、私は恋もしないうちに、失恋を自分の運命と極(ママ)めてしまっていた」(「無題原稿(一)」)と言う。確かに、弦斎物では『両美人』の蓮、『深山の美人』の綾羽、『芙蓉峰』のお秋、『大福帳』のお絹といった女性は美人であり、女丈夫型であるが、女としての哀れさ愛しさを秘めて苦悩の人生を歩む主人公達である。父幸松についで祖父忠見を失った阿佐緒にしてみれば、こうした薄幸の女性達に知らず知らず己れの影を投影させてしまうのであったろう。阿佐緒はまた、村井弦斎の小説を通して、「真実愛している者とは一緒にはなれぬ」というひとつのペシミテックな恋愛感を持つに至ったと言う。

村井弦斎の小説が原の恋愛感にこのような多大な影響を与えていたとは。小野によれば、「無題原稿」は、二男保美氏が保管しており、(一)は所謂「わが青春記」(幼児期も含む)に類するものという。現在では、どこに所在するのだろうか。ぜひ、黒岩さんに見てもらいたいものである。

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芸術新潮』は「小村雪岱を知っていますか?」特集。2月14日まで埼玉県立近代美術館で「小村雪岱とその時代」が開催中。『SPA!』の坪内・福田の対談でも言及。清水三年坂美術館でも、5/28(金)〜8/22(日)に「小村雪岱の世界〜知られざる天才画家の美意識と感性〜」を開催するらしい。