神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

元々社の最新科学小説全集に関するちょっとした発見

河出ブックスもやってくれる。長山靖生『日本SF精神史 幕末・明治から戦後まで』。
日本SF精神史----幕末・明治から戦後まで (河出ブックス)

ハヤカワ文庫JAからは福島正実『未踏の時代』。
未踏の時代 (日本SFを築いた男の回想録) (ハヤカワ文庫JA)


さて、福島の書を見ると、元々社の最新科学小説全集について、次のような記述がある。

一九五六年には、元々社は、佐藤享一を中心とする企画チームによって、その<最新科学小説全集>を出版しはじめた。(略)このシリーズは、最初非常な反響をよび、ジャーナリズムも、かなりの反応を示した。/だが元々社は、翌五七年、二十冊のSFを残してもろくも倒産し、殆ど同時に石泉社が倒産した。


「二十冊」は、より正確に言うと、長山の書にも書かれているが、最新科学小説全集が18冊(昭和31年4月〜32年2月)、宇宙科学小説シリーズが2冊(昭和32年10月〜12月)である。元々社神田駿河台2-1)の最新科学小説全集は、第1期12巻に続き、第2期も12巻を予定していたが、6冊を刊行して中断。残る6冊を、東京元々社(神田三崎町2-34)発行、東京ライフ社(東京元々社と同じ所在地)発売の宇宙科学小説シリーズとして再編したが、2冊しか刊行されていない。元々社の発行者は、小石堅司で、明治大学法科の出身で、『明大生活』という著作もある。東京元々社の発行者は、沼田千之である。


従来、元々社については、以上のことしか判明していなかった。しかし、新たな情報を発見した。『大島豊先生を偲ぶの記』(駿哲会)所収の津田和弘「人間大島豊先生」によると、

その後、日大の地下室で「元元(ママ)社」(鵜沢先生が命名)という小さな出版社を始めたとき、明大政治学部の斎藤晌先生が、ここで「歴史哲学」や「哲学概論」。(ママ)小説「死ぬる前」そして今でも充分に読み応えのあるS・Fの類を数々出版された。(略)/この出版社はやがて失敗して消えてしまった。私の若き日の最初の挫折である。


元々社命名者は、明大総長の鵜沢総明だったらしい。鵜沢は、弁護士で、戦前天津教事件の弁護人。同教の熱烈な信者でもあった人物である。斎藤が最新科学小説全集の企画をしたようにも読めるように書かれている点については、福島の言う佐藤とどういう関係かは不明。ただ、斎藤は同全集第1巻の月報に「最近の科学小説ブーム」を執筆しており、海外SFにも通じていたようである。元々社については、今後も追跡調査が必要だ。


(参考)斎藤晌(さいとうしょう)は、『近代日本社会運動史人物大事典』などによると、明治31年1月15日愛媛県生、大正13年3月東大文学部哲学科卒、昭和4年3月同学部大学院修了。哲学者、漢詩学者。大正14年東洋大学教授となり、『日本的世界観』などの著作がある。戦後、「日本出版会理事・書籍部長、著書、大日本言論報国会理事」を理由として公職追放。後、同大学教授、明治大学教授。平成元年5月11日没。このような人がSFに関係があるとは、意外である。