最近出た小松久男『イブラヒム、日本への旅』(刀水書房、2008年10月)は、最近の研究成果を取り込みつつ、わかりやすく書いてある好著である。ただ、「イブラヒムは一切明かしていないが、滞在中の彼の面倒を見ていた日本のしかるべき個人あるいは組織が存在したことはまちがいない」とし、宇都宮太郎の日記を参考にしていないのはどうだろう。昨年岩波書店から刊行された同日記によると、
明治42年5月8日 大原武慶来衙、露国帰化韃旦[靼]人アブジュラシット・イブラヒムの(元回教管長にて一度露の国会議員たりしことあり、革命思想懐抱の為め迫害を受け退去せるものにて、原籍は露国カザンの人なり)反基教同盟を主張し主意書を持参し謀る所あり、余の意見を授く。但し余は或時機までは直接に面会せず。
6月6日 来宅せしものは根津の外、歩兵大尉松井石根、歩兵中佐三原辰次(露の亡命カザンの韃靼人イブラヒムを繋ぎ置く為め大原武慶に本日金三百円を渡す為めに召致。此金は三原保管の別途資金にて福島中将の管理せるものなり)、(略)
43年3月14日 大原武慶を本部に招きイブラヒム其后の状況を質す。同人は目下メッカ付近に在り、三百円を余与へ連絡を維持する積なりしに、金子丈は大原受領せしも其後のことに付き何等報ぜざりしに故質せし次第なり。余の胸中にては、イブラヒムの人物素性も不明なれども、果して出来そーならばファードリー等と共に他日回教徒操縦の道具に利用し、耶蘇教国と対抗の或る場合には利用し得る如く為し置かんとの考えなり。
とある。なお、イブラヒムは明治42年2月2日から6月17日まで日本に滞在した。「福島中将」は福島安正参謀次長。
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『明治のお嬢さま』読了。最終章に再び美人コンテストで一等になり学習院を放校された末弘ヒロ子も出てきてうまくまとめている。さすがというべきか。『はいからさんが通る』を再び読みたくなってしまった。
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これまた黒岩さんネタになるが、『ダ・カーポ』今年最高の本特集の「新聞・雑誌の書評担当者が選ぶ「本当に面白かった本」」で『編集者 国木田独歩の時代』(角川選書)と『戦争絶滅へ、人間復活へ』(岩波新書)が選ばれていた。
金沢文圃閣から出ている『文献探索』は国会図書館に納本されているが、小冊子『文献継承』は納本されていないようだ。後者の最新号には、岡崎武志氏のほか、わしの畏友書物奉行氏も執筆しているらしい。しかも、わしの名前を出してくれているようだから、今回の分だけでも納本してくれないかしら。