神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

 国際政経学会常務理事増田正雄の正体

長い間謎とされてきた増田正雄の経歴が多分判明した。
まず、柳田國男の「大正七年日記」と「大正十一年日記」で増田の名前を探してみる。

大正7年1月30日 △午後増田正雄君来日露実業会社が二千万円に増資することゝ社長がほしいといふこと、

  11年1月10日 夕増田君とあふ約束
        (略)
        夜スキヤ町加賀屋、大阪の増田君招、市来結城静雄、石嘉六君同席

増田は日露実業会社の関係者で、大阪に住んでいるようだ。そこで、『日本人物情報大系 別巻 企業家編被伝記者索引』を見ると出ていた。同大系第33巻収録の『大日本実業家名鑑 下巻』(実業之日本社大正8年7月)に当たると、

増田正雄 大阪市西区江戸堀南通五丁目壱番地
貿易商 日露実業株式会社*1
[出生]明治二十三年十月十三日東京に生れ明治四十一年養母増田ダイの養子となり大正八年二月養母死去の後を襲ふて家督を相続す
[経歴]君貿易に趣味を持ち目下志を遂行して貿易商を営み傍ら前掲会社に関係して鋭意我国貿易界に貢献せんとしつゝあり
[趣味]読書として殊に古書を漁るを唯一の楽しみとせり

また、『大衆人事録第14版』(帝国秘密探偵社、昭和17年)には、

増田正雄 幌糠炭礦(株)社長、日本電解製鉄所(株)取締
麻布区新堀町六
[閲歴]本府白澤庄太郎長男明治廿三年十月十三日生れ大阪府増田政輔の養子となる曩に三益興業ネオセメント各代表たり
宗教神道 趣味碁古本蒐集

折口信夫中山太郎とともに柳田の帰国歓迎会に出席し*2、松宮春一郎や長谷川天溪とともに中山のパトロンだった*3増田の正体がこれで判明した。ただ、これが国際政経学会の常務理事で反ユダヤ主義者の増田と同一人物としてよいのか確証はない。ある国家主義者の名簿には、昭和14年現在の国際反共連盟の評議員として、麻布区新堀町六に住む増田の名前が挙がっている。柳田の知人であるという共通点もあるし、これらの増田は同一人物と見てよいのだろう*4

古本漁りが唯一の趣味だったという増田正雄。古本好きがこうじて、トンデモない世界に走ってしまうとは、誰ぞ、じゃない、わしか(笑)、わしみたいだすね。

宮澤正典氏、大塚英志氏にして解いていない増田の正体を一応解明したようだ。

(参考)国際反共連盟は昭和12年4月創立。他の評議員として、今泉定助、葛生能久、山岡萬之助、松岡洋右、松本徳明、荒木貞夫有田八郎赤池濃、皆川治廣、蓑田胸喜四王天延孝らがいる。

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國文學』の次号は落語特集(「落語の愉しみ」)らしい。岡崎武志氏が猫猫先生が落語にめちゃくちゃ詳しいことに驚いていたけれど、「談志師匠」『軟弱者の言い分』によると、「中学生のころ、私は落語研究会に所属していた」とのこと。

*1:アジア歴史資料センター所蔵の「日露実業株式会社創立ニ関スル件 大正七年八月」によると、常務取締役。

*2:柳田國男の帰国を歓迎した凄い人達」(2008年4月2日

*3:中山太郎の後援者」(2008年4月5日

*4:追記:『全国国家主義団体一覧 昭和十六年十月現在』1166頁の国際政経学会の項に、常務理事増田正雄の住所が、麻布区新堀町六とあり、同一人物と確認。