神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

これが芦部信喜だ!


岩波書店から芦部信喜憲法第四版』が高橋和之補訂で刊行。


ところで、戦前、旺文社から『新若人』なる総合雑誌が刊行され、鈴木庫三や、小島威彦、藤澤親雄らが執筆していたことは紹介したね。
同誌昭和16年10月号では、「懸賞小論 若人の叫び」の受賞作の発表がされている。
1等賞受賞作の一つに「真実の自覚に生きよ」という作品がある。

日本人としての自覚。私はこれが国民に徹底してゐるか否かを心から疑ふ者の一人である。「増産」といひ、「贅沢は敵だ」といふ。又「一億一心」といふ。勿論それを唱導する精神はよい。然しそれが国民に徹底しなかつたなら何もならぬ。といふのは、私は今年始めて帝都に出て、時偶食堂等で食事をした事がある。所が驚いた事には、殆ど全てといつてもよい位の人が其の料理を少しづゝ残して行くのである。(略)其の人達も米を始めとした食糧増産の急務や、贅沢は止めろといふ様な言葉だけは知つてゐるだらう。然らば一体何が彼等をしてかくあらしめたのか。それは真実の自覚がないからだ。


内容的には、特に国粋主義的な内容ではなく、現在の朝日新聞の投稿欄に掲載されてもおかしくないようなものである。戦前にこのような事を書いていたと責めるつもりはなく、それよりも、私は、おそらく『新若人』の愛読者であったであろうこの若き受賞者に、小島や藤澤のトンデモない寄稿を読んだ感想を聞いてみたかったのである。


この受賞者こそ、当時、松本高等学校の生徒であった芦部信喜その人である。