神保町系オタオタ日記

自称「人間グーグル」

上機嫌のかげに弦斎あり


文學界』で連載中の、小谷野敦黒岩比佐子*1のお二人。サントリー学芸賞受賞という共通点の他に、小谷野=谷崎潤一郎、黒岩=村井弦斎というそれぞれの研究対象でつながっている。
黒岩さんの『『食道楽』の人 村井弦斎』に記されているが、谷崎は弦斎の『近江聖人』を何度も読み直しては泣いたという。
また、小谷野氏の『谷崎潤一郎伝 堂々たる人生 』にも紹介されているが、谷崎の「直木君の歴史小説について」には、


自分が最初に読んだ小説、童話や古典物でない、今の世に謂ふ「創作」の体裁を備へた書物は何であつたらうかと考へてみて、消え去つた記憶を辿つて行くと、おぼろげながら、村井弦斎の「櫻の御所」とか何とか云つた題の歴史物を想ひ浮べる。それが果して最初であつたかどうかは分らぬが、兎にも角にも小説を読んだ記憶としては最も古く、さうして今もその時に受けた感銘を忘れずにゐるのである。


谷崎の読書の原点には、弦斎があったというわけだね。
奇しくも今年は、谷崎生誕120年。中央公論新社も創業120年。ジュンク堂書店のPR誌『書標』9月号で、小谷野氏は『谷崎潤一郎伝 堂々たる人生 』を中央公論から出版する経緯を記していたが、谷崎と中央公論には、こういうつながりもあったんだ。


ちなみに中公文庫からは、巻頭に小谷野氏が執筆している『谷崎潤一郎文学案内』(千葉俊二編)が刊行されたし、岩波書店のPR誌『図書』によると、12月には岩波文庫から弦斎の『酒道楽』が刊行予定。お二人の活躍で、谷崎、弦斎共に身近な存在となっていくようだ。

*1:ブログは休止中の黒岩さん、お元気かしら。